30代後半、祐一さん(仮名・自称経営者)の場合
年収の高さに惹かれてやり取りを始めた彼は、なんと経営者だという。写真もかっこいいし、話し上手なところもステキ。最初は「マッチングアプリで会うなんて」と思ってたけれど、こんなステキな人となら会っていいかも!
待ち合わせは、19時に銀座の三越前。きっとハイセンスなお店に連れて行ってもらえるんだろうなぁ。仕事中も久しぶりのデートが楽しみで浮かれ気味。昨日は仕事終わりにマツエクも付け直したし、ネイルもシンプルに直してもらった。
「あのー、栄子さんですか?」
声をかけてくれた男性は写真どおりのかっこよさで、身長もかなり高い。ビシッとしたスーツに身を包み、爽やかな笑顔でこちらを見つめている。これはもしかして運命かも?ドキドキが止まらない!こんなにかっこいい人と結婚できたら、毎日幸せだろうなぁ。腕時計はハイブランド。革靴はピカピカに磨かれていて、全方位文句なしの清潔感。
私の頭のなかは、勝手にこのあとのふたりの未来を想像していた。
仕事終わりに会社前まで車で迎えに来てくれて、助手席には大きなバラの花束。お酒好きな彼の家にはワインセラーがあって、ふたりで薄暗い部屋でNetflixでも見ながらワインを楽しむ。休日はちょっと遠くの温泉旅館でのんびり過ごして、お部屋で美味しい懐石料理なんていただいちゃう。婚約指輪は指からはみ出そうなくらい大きなダイヤで…
「栄子さん、ここです!」
彼の声でふっと現実に思考が戻る。顔を見上げると、そこは何度か来たことのある大衆居酒屋だった。
「え、ここ?」
焼き鳥一本120円から。仕事帰りの会社員たちでにぎわうその居酒屋は、確かにおいしさも居心地のよさもかなり高得点。しかしはじめてのデートには不釣り合いだった。焼き鳥の匂いが充満するガヤガヤとした店内…。
「焼き鳥、苦手でした?」
「いや、大好きですよ!」
こんなデートも悪くない!悪くないんだけど、お互いのことを話し合うはじめてのデートだし、もうちょっとオシャレなダイニングバーを期待していたんだよね。
食事を終えて、会計のとき。「あ、私も出しますよ」とお財布を出してみる。きっとここからステキなバーに連れて行ってくれるんだろうな。食事もきっとおごりだろうから…
「じゃあ3,000円もらっていいですか?」
んん?ちゃんと割り勘にする人?しかも私そんなに食べてないし飲んでないし…。
「これからどうします?カラオケでもどうですか?」
ええ?カラオケ?焼き鳥もカラオケも大好きだけど、それってもう少し仲を深めてからじゃない?初デートで行くところ?私の想像と全然違う!…勝手に期待していた私が悪いけど。しかも返事を待たずに早歩きで歩き出す彼。ちょっと待ってよ!
「ごめんなさい、きょうはこれから予定があるので!」
もっとスマートなエスコートを期待してたのに!もしかして私がわがまますぎるだけ?出会いに夢見がちなのかな、だけどごめんなさい、想像と違いすぎる!こうして私はいそいそと家に帰ってきたのだった。