夏祭り、初めて見る花火と君の横顔
東京の夏は暑くて暑くて、北海道の涼しい夏の夜なんてどこにもなかった。
どこかで花火の音が聞こえる。太鼓をたたくようにリズミカルに、ドンドンと、窓から見えるかなと思ってみたけどちっとも見えない。密集するマンションにアパート、住宅街のど真ん中、ここから花火なんて見えない。そんな私の愚痴を知ってか知らずか、ある日授業から帰るとゆうきくんがアパートの前に立っていた。
「おかえり!待ってたんだよ。ほら、荷物置いたら行くよ」
「行くってどこに…」
「花火大会!」
そういえばきょうは朝から浴衣の人をよく見かけた。いわれるがままに荷物を置いて、私は彼についていく。ゆうきくんは別の大学の1つ上の先輩で、あれから私のことをよく気にかけてくれていた。
この間は夜カレーを作って持ってきてくれたし、この辺の案内もしてくれた。大学まで突然来て「これから観光しよ!」って東京観光に連れて行かれたこともあったかな…よく突拍子もない行動をする人だった。
そんな強引さに私はすごい惹かれていて、優しくてよく笑ってくれる彼を好きになっていた。私を見つめるときの優しい眼差しにいちいちドキドキして、でも「私年下だから、妹としか思われてないのかな」って。
「ついたよ」
花火大会の会場からはかなり離れた公園に彼は連れてきてくれた。
「ここから花火見えるの?」
「うん、穴場スポット!大家さんが教えてくれたんだよね、彼女ができたら連れて行きなさいって」
彼女ができたら…どうして私をそんなところに連れてきてくれたの?
「それって」
私の言葉を遮るかのように大きな花火が空に打ち上がった。キラキラと光る火花が夜の東京を鮮やかに彩る。彼の顔もキラキラと、花火の明かりに照らされる。そしたらもう止められなかった。
「好きです」
キラキラと照らされた彼の顔をもっとずっと見ていたくて、そしたら自然に口からこぼれた。3月の終わりに初めて出会ったときからずっとずっと心のなかで育てていた思いを、あの大きな花火があふれさせた。
「あ、ごめんなさい…」
返事もなくただこちらを見つめる彼の顔を見て思わず謝ってしまう。どうしよう、失敗したのかな、いまじゃなかった?タイミングを間違っちゃった?
「りんちゃんさ」
彼は私のほうに体を向ける。
「俺がいおうと思ってたセリフ、なんで先にいっちゃうかな」
花火に照らされてよくわからなかったけど、あのときゆうきくんの顔も花火みたいに高揚していた気がする。じっと目を見つめられて、思わず恥ずかしくて目を背けた。
「俺も好きです、付き合ってくれませんか?」