あなたに勧められた本、まるで私たちみたいにステキな恋の話
ゆうきは家の近くの古本屋でバイトをしていた。小さな古本屋で、店主のおじいちゃんがいつもレジのところに座っていた。腰を悪くして本を整理できなくなったおじいちゃんの代わりに、ゆうきがアルバイトとして入ったらしい。
ほとんどお客さんは来ないようなお店だったけど、それでも愛がたっぷり詰まった本屋だった。店先のベンチにはいつも近所の人が座っていて、たまに猫も来る。一本となりの道は交通量も多くて途端に「大都会」のオーラを出しているのに、ここは違う。
ゆうきと付き合いだしてから、私はたびたびこの本屋を覗くようになった。もともと読書が好きだった私に、彼が色々と本を薦めてくれるのだ。
きょうの本はラブストーリー。物語は遠くから引っ越してきたヒロインと、主人公との短い夏の物語だった。私はまだまだ何度もここで夏を重ねるけれど、私とゆうきのことみたいでちょっと感情移入する。ラストが少し切なくて、思わずちょっぴり泣いてしまった。50円のワゴンにひっそりと埋まっていたこの本。こんなステキな物語がワゴンに埋もれていたなんてちょっと切ない。
ゆうきと付き合ってから、私の部屋の本棚はあっという間にいっぱいになった。実家から持ってきた3段のカラーボックス。シールをはがした跡も、落書きも、いまじゃなんだか愛しい。古本屋で働いているせいか、ゆうきは古書の匂いがする。懐かしくて落ち着く匂い。私の部屋にも、その匂いが香っている。
気づけば私だけの空間が、あなたとふたりの空間に変わっていた。棚のうえには彼がUFOキャッチャーでとってくれたぬいぐるみ。コルクボードにはふたりで撮った写真。テレビの横にはお祭りで当たったちっちゃなランプ。見渡す限り、あなたがそこにいるみたいだった。
ふとインターホンが鳴る。彼は付き合ってからも、こうして突然家にやってくる。ちょっと強引に誘ってくるところとか、やっぱり好きなんだよなぁ。
「ゲームしよ!実家からファミコン送ってもらったんだ」
深夜までふたりでゲームをしたり、お腹がすいてアイスを買いに行ったり。次の日は一緒に夜ご飯を食べて、「暇だね」なんていいながらDVDを借りに行く。漫画とかドラマで憧れてたような半同棲状態を、私は経験していた。