思い出はいつまでも、カメラロールに残ったままで
ふと棚の上の小さな箱が目についた。あのなかには古い携帯電話たちが入っている。もちろん、圭吾と付き合ってた当時に使っていたものも。
まだ電源はつくのかな。電源ボタンを長押しすると、パッと画面が明るくなった。スマートフォンがまだ出たばかりのころのものだ。少し割れた画面が懐かしさを物語っている。たしか、圭吾とサイクリングしていたときにポケットから落ちて割れてしまった。
待ち受け画面は付き合っていた当時のまま、私と圭吾のツーショット写真だった。ふたりでちょっといい温泉に行って、浴衣姿で写真を撮ったんだよね。そのとき大学生だった私たちは、温泉のためにコツコツとバイト代を貯めて、レンタカーを借りて旅行に出かけた。
カメラロールをタップすると、写真がたくさん出てきた。付き合っていた当時の思い出の写真が山ほど出てくる。
これは付き合い始めのころに圭吾の家にお泊まりしたときの写真。これは夏にお祭りに行ったけど、雨が降ってそろってずぶ濡れになったときの写真。これが冬にスノーボードをしたときの写真で、あとこれが、圭吾の実家のワンちゃん。
「このころは楽しかったな…」
胸がぎゅっと苦しくなる。写真のなかのものは、いま何ひとつして私の手元に残っていない。動画のなかで動く彼も、楽しそうに笑う私も、もう二度と戻ってこない。
「こんなの見てたらダメだ、もっとモヤモヤしちゃう」
電源を消そうとしたとき、ふと一件の未読メールに気づいた。差出人は圭吾。震える指でメールを開いた。
「俺、この3年間本当に楽しかった。この先もずっと忘れないよ、俺を好きになってくれてありがとう。誰よりも愛しているよ。だから絶対夢を叶えて幸せになれ。どれだけ時間が経っても、もう二度と会えなかったとしても、俺はお前が幸せになってくれるのが一番の願いだから」