幸せになってね、私も負けないから
圭吾と私が別れた原因は私にあった。
「看護師の試験に集中したいから、別れたい」
当時の私はとにかく必死で、圭吾に構っている余裕などなくなり始めていた。厳しい実習に心は折れかけていたし、「看護師に向いてないのかも」と毎日思った。
そのせいか圭吾に八つ当たりすることも増えていた。「こんなメンタルじゃ看護師なんて務まらない」何度自分にいい聞かせたことか。いまじゃあのころの自分が可愛く感じるけれど、そのときは必死だったな。
このまま付き合っていてもお互いにメリットはない。ただすれ違いの日々が続くだけ…だから別れよう、いまは夢に集中したい。そんな私のわがままを、圭吾は優しく聞いてくれた。
メールを読んで涙がボロボロとこぼれてきた。圭吾は、私の幸せをいつだって一番に願ってくれていた人。大事なことを忘れていた。私は、圭吾が応援してくれたから夢を叶えられたんだ。
別れてしばらくしてから、圭吾に「国試受かったよ」って連絡したらわざわざ家まで来てくれた。ちっちゃい花束とコンビニのケーキ持って「おめでとう」って。あのときの嬉しい気持ち、圭吾の優しさを、すべて無駄にするところだった。
そんな感謝の気持ちを忘れて、圭吾の幸せを恨んでしまった。別れたとき、私もこのメールと同じように「圭吾には、誰よりも幸せになってほしいの」そう思ったはずなのに。気づけば別れた理由をすっかり忘れて、圭吾の幸せを祝えなくなっていたのだ。あの愛し合った日々を、こんな気持ちで終わらせたらダメだ。私たちの恋愛は、いまも昔もずっと輝いたままにしておきたい。
涙をシャツの袖口で拭うと一通のLINEが届いた。
「いま暇?彼氏と喧嘩してツライから電話付き合ってほしい!」
幼馴染からだった。そうだ、私にもちゃんと友達がいる。「圭吾の」ではない、どんなに状況が変わっても、見守ってくれている人はたくさんいる。遠く離れていても、幸せを願ってくれる人たちがいる。前を向かなくちゃ。圭吾に負けないくらい、私も幸せになるんだから。
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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