恋愛フィルターはあながち間違いじゃないかも
ある日コンビニ行くと、一目ぼれした彼、佐藤さんがレジに立っていた。心なしか、肉まんの数を数えているような気がした。まあ、恋愛フィルターがかかっていると、どんな行動も都合よく解釈してしまうものだ。ちょっと目が合ったかもとか、私のときだけ声が優しいかもとか。
チューハイを手に取ってレジに行くと、佐藤さんが「どうぞ」と手をあげた。
「これと」
「肉まんっすよね」
「はい…えっ?」
驚いて顔を上げると、すでに佐藤さんは肉まんを取り出していた。
「あれ、違いました?」
「いや、あってます」
「よかった、もう出しちゃいましたもん」
佐藤さんはいつものように淡々と、肉まんの袋にテープを貼った。「袋も持ってますよね」って、私に肉まんを差し出してくる。あれよあれよという間に会計が終わり、気づけば私はコンビニを出ていたし、自宅にもついていた。
「覚えてくれてたよね…?」
さっきのことが夢のようだった。作戦が成功したみたい!私、佐藤さんに認識してもらえた!嬉しくなってTwitterにもすぐにつぶやく。
“彼に認識されてた!やばい、次はどうしよう!”
そしたら、みんなから祝福のリプライとともに「世間話で仲を深めて、連絡先交換ですね!」と。連絡先が交換できるのはいつになるかわらかないけど、やっぱりこの距離を縮めるのって大事だよね。わかるわかる!なんかのサイトで読んだかも。
前向きな気持ちを胸に秘めてから、約1カ月。残業続きの日々を過ごし、まったくコンビニに足を運べなくなってしまっていた。
久しぶりにゆっくりできる休日。どうせ昼間に彼はいないだろうから…そんな気の緩んだ格好で、私はコンビニへ昼ご飯を買いに出かける。サラダとおにぎりを手に取ってレジに置くと、店員さんが声をかけてきた。
「あれ、きょうは肉まんじゃないんですね」
聞きなれた声。驚いて顔を上げると、佐藤さんがこちらを見つめていた。どうしよう私、すっぴんだし、髪の毛は適当に結んだだけだし、Tシャツにジーパンだし…。
「もう来ないのかと思ってました、忙しかったんですか?」
「あ、はい。残業続きで…」
「そうだったんですね、お疲れさまです。よかった、きてくれて」
佐藤さんはくしゃっとした笑顔で、私のほうを見つめた。
やっぱり、私ちゃんと覚えてもらえてる。恋愛フィルターのせいで些細な行動にも敏感になりがちだけど、これはフィルターのせいじゃない。彼は間違いなく私を認識してくれていた。