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17 件思わぬ一言。私の行動はおかしいですか？
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この日は劇場近くにある行きつけのパスタ屋でランチを楽しんでいた。テラス席でさっきまで見ていた舞台の話で盛り上がりながら外を眺めていると、驚いた顔でこちらを見る男性と目が合った。
「あら、たかしじゃない」
その男性は紛れもなく1年前に別れた彼、優子さんの息子のたかしだった。たかしは駆け足で店内に入ってくると、ちゃっかり同じテーブルに座り、パスタを注文した。
「なんで一緒にいるの？」
開口一番、たかしは私と優子さんの顔を交互に見ていった。
「いまね、舞台観てきたのよ。お母さんがずっと好きな俳優さんのチケット、みかちゃんが手に入れてくれたのよね」
「えっ、いやそういうことじゃなくて…」
たかしは不思議そうな顔をしながらも「まあいいか」と口にし、運ばれてきたパスタを食べる。
「ってか、みか。久しぶりだよな。なんか雰囲気変わった？最初誰かわからなくて驚いた」
「そう？たかしはなんか、痩せたね」
「みかちゃん聞いて、たかし最近ジムに通い始めたのよ」
「ええ、なんで？」
「なんでって、ちょっと俺も筋肉質になればモテるかなと思って」
和やかな雰囲気で会話が進んでいく。はたからみれば、私たちはなかよしカップルと母親といったところだろうか。本当はもう別れてる、なんて誰も想像つかないだろう。
最初は戸惑っていたたかしも、楽しそうに話す自分の母親を見て、どこかホッとしたような顔をしていた。その日の夜。
「母さんのためにも、俺たちヨリ戻さないか？」
お風呂から上がってスマホを見ると、たかしからLINEが届いていた。
「ごめん、それは考えてない」
すぐに返事を送る。いくら優子さんと仲がよくても、たかしとヨリを戻そうという考えに至ったことはいままでもなかったし、これからもない。
たかしと別れた理由は価値観の違いだ。いまさらヨリを戻してそこが治るかといったら、まず無理だと思う。たかしは優しいし、人として尊敬したい部分はたくさんあるが、もう恋愛感情は湧いてこない。尊敬しているのと好きになるのは違うのだ。
しかし、たかしは私たちふたりのことよりも、母親のためにという思いが強いようだ。
「なんで？母さんだって複雑な気持ちかもしれないって、考えないのか？」
たかしが重視しているのは、どうやら「私たちがこの先もうまくやっていけるか」ということではない。母親にとって一番心が安らぐ関係でいたい、母親を安心させたい、といったところだろうか。ひとりっ子のたかしが自分の母親の気持ちを案じるのも無理はない。
もしかして私が気づいていないだけで、優子さんはこの関係に複雑な気持ちを抱いているのだろうか。いつか息子ともう一度結ばれてくれたら…そんな気持ちでこの関係を続けている可能性は？ゼロとはいえないだろう。親は自分の子どもの幸せを一番に考えているはずだから。
この関係、続けるか続けないか…
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申し訳なさが膨らんだ私は、優子さんにLINEを送った。
「私たち、もう会うのやめませんか？」
既読がついてすぐに優子さんから電話がかかってきた。
「もしもし、みかちゃん？いまいいかしら」
「あ、はい。大丈夫です」
優子さんは軽く咳払いをして話しはじめる。
「私、あなたのこと友達だと思ってるのよ。…たかしに何かいわれた？」
「えーっと…まあ、そんなところです…」
「やっぱり。ごめんねみかちゃん、いい気持ちしなかったでしょう」
はあ、とため息をついた優子さんの表情がなんとなく想像できる。
「私もたかしにね、さっきいわれたの。『母さんが複雑な気持ちで過ごしているのは嫌なんだ！』って。笑っちゃった、誰がいつ複雑だっていったかしら」
優子さんはころころと明るい声で笑う。
「複雑になんてね、私なったことないのよ。第一、私の交友関係なんて息子に関係ないと思わない？私の自由でしょう」
そんな優子さんの言葉に、目頭がどんどん熱くなっていく。
「私ね、みかちゃんのこと『たかしの元カノ』だなんて思っていないの。私の大事な友達だと思っているから。もしみかちゃんが嫌じゃなければ、これからも一緒に劇を見に行きましょうよ」
優子さんの温かい言葉にぼろぼろと涙が出てくる。友達といってくれたことが何よりうれしかった。元カレのお母さん、と気にしていたのは私のほうだったのかもしれない。もう気にする必要はないんだ、堂々とこの関係を楽しもう、かけがえのない友人を大事にしよう。
「この間はごめん。俺、誤解してた」
数日後、会社の前でたかしに出会い、頭を下げられた。
「俺、お前と付き合ってよかったなって改めて思った。だって、母さんに大事な友達が増えたんだもん…って、なんか俺マザコンみたいだよな」
へへ、と笑うたかしの顔はうれしそうだった。自分の母親を大事に思うその気持ちは、いつまでも忘れないでほしい。私はたかしの「家族思いなところ」が好きだったのだ。
「俺がお願いするのも変な話だろうけどさ、これからも母さんとなかよくしてくれるとうれしい」
たかしはニッコリ笑ってそういった。もちろんいわれなくても、そのつもりだよ。
来月の予定がまた埋まる。手帳に書かれた「優子さん」の文字が、前より暖かく見える。きっとまた、あの話で盛り上がるんだろうな。そうだ、もう少しで優子さんの誕生日だからプレゼント考えよう。出会いのきっかけがなんであれ、私にとって優子さんが大事な友人であることは、この先もずっと変わらない。
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