理想を語るのは簡単だけど、現実はそうもいかない
「きょうから私がご飯作る!」
帰宅後、私は張り切ってキッチンに立っていた。いや、正確にいえばやけくそみたいなところもあった。
「どうしたの急に」
「なんか、料理してみたくなっちゃって!」
まさか「あなたのお母さんにこんなこといわれたの」だなんていえなかった。
心配そうに私を見つめる啓太を振り切って宣言したものの、翌週からは残業続き。早起きして夕飯の支度をしてみようと試みるも、段取りが悪く、結局啓太任せになってしまっていた。
「お弁当も私が作る」と宣言したせいで、啓太からの愛情弁当はナシ。結局コンビニでおにぎりを買うことになり、パッとしない昼休みを過ごしていた。
「奈津子さん、目の下のクマやばいですけど…もしかして仕事持ち帰ってます?」
部下がおにぎりを無心で口に詰め込む私に声をかけてきた。
「いや、そんなことはしてないよ。ちょっと連日早起きしてて…」
「ええ、帰りも遅いのに早起き?どうしたんですか…ってえ?コンビニのおにぎり食べてるんですか?お弁当は?」
「ああ、ちょっとね」
「はっ、もしかして喧嘩でもしました?だから最近調子出ないとか…?」
違うよ、そんなんじゃないのと元気なく笑う私。「何かあったら相談してくださいね」といわれ、そんなに調子の出ない様子だろうかとトイレの鏡で自分の顔を見つめてみた。
いつにもなくぼろぼろの顔。そういえば最近、珍しく仕事もやらかしてしまった。大きなため息をついて自分の手を見つめると、ベタっと貼られた絆創膏が目につく。そういえば料理しててヤケドしたんだった。先日は指も切った。
自分のダメさ加減に思わず涙がこぼれそうになる。「啓太がかわいそう」お義母さんの言葉が頭のなかで反響する。