変わっていく世間の目、認識

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また1年ぶりの親戚の集まりだ。「きょうは俺、トイレも行かないで奈津子の隣にいるぞ!絶対ガツンといってやる」と啓太は意気込んでいるが、やっぱりどうも胃が痛い。
部屋に入っていくと、みんながテレビに注目している。「いま話題の料理男子インフルエンサー」という特集だった。
「最近は主夫ってのも多いんだな」
「男が料理って、昔じゃ考えられんな」
叔父さんたちがいい合っているなかで、1人の叔母さんが声を上げた。
「いいわねいまの時代は。おかげで女性も仕事続けられるじゃない。私、結婚で仕事辞めたのいまでも後悔しているわ」
「奈津子ちゃんと啓太くんなんて、理想の夫婦よね!」
1年まえの嫌味ったらしい発言はどこにいったのか、手のひらを返したようにほめちぎってくる。
「でも啓太だって、仕方なくやってるのよね?男性のプライドとかどうなのかしら…」
お義母さんが声を上げた。周りの同意を得ようと、あたりをぐるりと見渡す。
「母さん、俺料理が趣味だって知らないの?」
一番最初に反応したのは啓太だった。
「おかげさまで今度、エッセイ本を出すことになったんだよ、料理のね。ひとつ夢がかなったって感じ…これって、奈津子のおかげだと思ってるんだけど違う?」
これが私たち夫婦の形

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後日、啓太が出版したエッセイ本を読んだお義母さんから電話がかかってきた。
「啓太の料理、なんだかすごいわね。カタカナがいっぱいでびっくりしたわ。毎晩あんなの出てくるの?」
「いや、毎晩ではないですけど…結構、そうですね」
「お弁当もおいしそうで、きょうも食べたの?」
「はい、お弁当はほぼ毎日作ってくれていて、とてもおいしいですよ」
息子の本を持ってうれしそうにしているお義母さんの様子が電話越しでも伝わってくる。先日の法事で啓太が「料理が好き」と宣言した後、すぐに親戚からエッセイ本への質問が相次ぎ、お義母さんとの話はうやむやになったままだった。後味の悪さを感じながら、今日にいたる。
「私、知らなかったの。奈津子さんが仕事を頑張れているのは、啓太のおかげなのね。そしてあなたのおかげで、啓太も好きなことに専念できていたのね」
「そんな、私は何も」
「なんだかいろいろいってしまってごめんなさい。私、もっと頭を柔らかくしないとダメね」
電話を切ると、部下が駆け寄ってくる。「昇進祝いです!」と、近くのコンビニで買ってきたであろう大量のお菓子を私に渡してきた。慕ってくれる部下の存在、認めてくれる上司の存在、そしてやりがいのある仕事に専念できる暮らし。私がこの生活を続けられるのは、まぎれもなく啓太のおかげだ。
帰宅すると、ダイニングテーブルには豪華な花が飾られていた。いつもはお箸なのにきょうはフォークとナイフ。ランチョンマットも、なんだかおしゃれ。
「きょうはステーキだよ」
「えっと…なんかの記念日だったっけ」
「ううん、奈津子の昇進パーティー」
ニコッと笑いかけてくる啓太。私も手に持っていたエコバッグから、ワインのボトルを取り出した。
「じゃあ私からも、はいこれ。啓太の出版祝いパーティー」
「あはは、お互いにお祝いしようとしてたんだね」
もう私は第三者からの「かわいそう」とか、「普通はこうだよね」なんて言葉に惑わされたりしない。これからもお互いが協力し合って、夢を叶えていくのだ。
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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