厳しい束縛の裏に、知らない女性の影
鉄平の束縛はその後もどんどんエスカレートしていき、ついには男子との会話さえ禁止された。厳しく監視される日々に、私は戸惑っていた。しかし「愛されてる証拠だよ、うらやましい」と女友達に言われ、恋愛とはこういうものなのかと、無理やりにでも納得するしかなかった。そんなある日のことだった。
「鉄平、さっきからスマホ鳴ってるよ」
「えー誰だ?」
「うんとねぇ…みことちゃん…?誰?」
「ああ、みことか」
「ねえ、女の子だよね?誰?」
「お前に関係なくない?」
鉄平は私のほうに顔を向けず、漫画を読みながら答える。関係なくない?だって私は彼女なのに?
「誰かぐらい教えてくれたっていいじゃん、何組の子なの?」
「うるさいな」
「変じゃない?私は男子と連絡とるのダメなのに、鉄平はいいの?それっておかしいよね」
「なに、俺のこと疑ってんの?」
「そういうわけじゃないけど、なんで私ばっかり我慢しなくちゃいけないの?」
「じゃあ連絡とればいいじゃん。俺はお前のこと、浮気したいのかなって思って見るから」
「だから、そういうことじゃなくて…」
まるで話にならなかった。誰なのかを聞けば無視され、おかしいんじゃないかといえば論点をずらされ、しまいに私もこれ以上聞くのを諦めてしまった。心のなかに、モヤモヤを残したまま。
そしてそのもやもやは、すぐに形になって表れた。母と街に買い物に出たとき、鉄平が知らない女の子と手をつないで歩いているのを目撃してしまったのだ。
私には「あなたの彼女」という肩書きしかない
鉄平が女の子と歩いているのを目撃した日から、彼の周りには知らない女子の影がちらほらと見えるようになった。誰なのと聞いてもはぐらかされるだけ。いつしか私の不安は怒りへと変わっていった。
「鉄平ばっかりおかしいと思うの、だから私も男友達作ろうと思って」
「いいんじゃない?里奈ばっか制限されてかわいそうだもん」
「でしょ?とりあえず連絡先の交換からはじめなきゃ」
いつだか高校でできた女友達にこう話したことがあった。いま思えば、こうやって誰かに宣言なんてしたのがいけなかったのかもしれない。
私が友達になろうと男子に話しかけても「あ、鉄平の彼女さん」と、よそよそしくされるだけ。遊びに誘おうとすれば「鉄平にダメって言われたからごめんね」と言われ、せめて連絡先だけでもと言えば「鉄平と友達やめたくないから」と断られる。
これは憶測にしかすぎないけれど、私が友達にポロっと口にした願望は、鉄平の耳にも入っていたんだろう。私に男友達ができないよう裏で手をまわし、先手を打たれていたのだ。
結局、仲よくできる男友達はできなかった。それどころか女友達ともうわべだけの付き合いで終わった。
最悪だったのは学校祭後の打ち上げだ。私は毎回鉄平に「時間空けといて」と言われたため、毎年打ち上げは欠席していた。しかし鉄平はクラスの打ち上げにちゃっかり参加しており、私のことを数時間も待たせた。
3年生のときには「私も打ち上げに参加してやる」と思って誘われるのを待っていたが、そもそも誰も声をかけてくれなかった。あの子を誘っても、どうせ参加しないから。そう思われていたのだ。
いつの間にかクラスから浮いた存在のまま、ついに高校卒業の日。卒業アルバムに書かれたクラスメイトからのメッセージは「鉄平との結婚式楽しみにしてるね」「これからも鉄平と仲よくね」など、鉄平に関するものばかり。私だけに向けられたものはひとつもなかった。