隣の女の子は、だれ?
大学は別々のところに進んだ。鉄平のいない学校生活は、正直言ってとても快適だった。最初は「さみしい」と感じることもあったが、男子と話しても誰にも怒られないのだ。それに、誰も私のことを「鉄平の彼女」として接してこない。私は私、自然体でいられるのだ。
まゆ、という友人もできた。学校帰りには一緒にショッピングを楽しみ、休日はお互いの家でよく遊んだ。はじめて心を許せる友人だった。
「里奈、さいきん彼氏とデートした?」
「ううん、彼バイトはじめたから忙しくて、一週間くらい会ってないなぁ」
「え、じゃあさ、今度ここの遊園地行ってきなよ!私この間行ったらクーポンもらったんだよね」
私にソフトクリームの引換券を2枚渡し、まゆが続ける。
「この前友達カップルとここの遊園地行ったんだけどね、すっごい楽しくて!里奈も絶対気に入ると思う。お化け屋敷とかやばかったよ」
「そうなんだ!けっこう混んでる?」
「混んでるけど、そんなに待ち時間はないよ。あ、これ写真!」
まゆが見せてくれた写真を見て驚いた。まゆと彼氏の隣に、知らない女の子と仲睦まじく手をつないでいる鉄平がいたのだ。
「この人たちが、友達のカップル?」
「そうだよ~、この子は私の幼馴染。かわいいでしょ」
「うん、そうだね…」
その子の彼氏、私と付き合ってるんだけど。とは、どう頑張っても言えなかった。なぜか喉がギュッと締め付けられるように苦しくなって、言葉が出てこなかったのだ。
次の土曜日、久しぶりに会った鉄平に私は満を持して問いただした。「この間、遊園地でダブルデートしてたよね?」と。しかし鉄平は、私の質問に答えなかった。
「俺が、一番愛してるのはお前だから」
「それはうれしいんだけど、いまそれを聞きたいわけじゃないから」
「それじゃダメなの?安心できないわけ?」
「安心とかじゃなくて、私は本当のことが知りたいの」
「俺がお前を愛してるのは、本当のことだよ」
前のように逆ギレされることはなかったが、はぐらかされるだけだった。
「大学卒業したら、俺が養ってやるからさ。お前は就職のこととか考えなくていいから、おいしい飯作って家で待っててほしい」
「なにそれ、プロポーズみたい」
「まあ、そんな感じ?待っててよ、いつか超でっかいダイヤの指輪用意するからさ」
そう言って笑う鉄平の顔を見て、私はつい許してしまう。「きっと見間違いなんだ」こんなに私を愛してくれる人が、浮気なんてするはずない。もしそうだったとしても、頼まれて仕方なく付き合ったのかもしれない。だって、彼は私との結婚を考えてくれてるんだから。
しばらくして、鉄平と私の共通の友人にバッタリ会った。「あいつ、新しい彼女できたんだってな。里奈ちゃん知ってた?」どういうこと?まだ私、鉄平と付き合ってるんだけど。
別れへの決意
「里奈ちゃんとはもう別れた、って言ってたよ。大学入学と同時に振ったんだ~って」
「そんな、私振られてないよ。この間も将来の話とかされたし」
「まじか、なんかごめんな…」
共通の友人は申し訳なさそうに去っていった。鉄平はなんで、そんな話しているのか?
それでも鉄平は引き続き私の家によく遊びに来たし、デートにもたくさん行った。ドライブにも連れて行ってくれたし、温泉旅行にも出かけた。誕生日にはかわいいネックレスをくれた。クリスマスも、一緒にお祝いをした。
そして年が明けて、成人式の日がやってきた。私は鉄平と会場で待ち合わせをしていた。
「里奈ひさしぶり!元気だった?会いたかったよ!」
高校の友人たちと久しぶりに再会をする。会いたかったというわりには、一度も連絡をしてはこなかった人たちだ。
「きょうの同窓会って里奈もくるの?」
「なに、それ。知らない」
友人に言われて、自分が同窓会によばれていないことを知る。すると幹事がやってきて「だって連絡先知らないから、よべないじゃん」と言われてしまった。さらに「鉄平の彼女さん…えっと、名前なんだっけ…?」とまで言われた。ああ、久しぶりに思い出した。私の肩書は「鉄平の彼女」。
成人式が始まる時間になっても鉄平はこなかった。「きょうちょっと用事できていけなくなった、すまん!」とLINEに通知が来る。仕方ないか、バイトも忙しいっていうし。
暇つぶしにSNSを眺めていると、まゆがInstagramにStoriesをアップしていた。
「みんなでディズニー来てるよ~!#ダブルデート #このふたり明日で1年 #おめでたい」
その投稿にタグ付けされていたのは、鉄平とまゆの幼馴染だった。ふたりはあの遊園地デートのころから、ずっと関係が続いていたのだ。