生きている人間にも、怖い部分がある。そう、以前「【恐怖の実体験】アパートの廊下を歩くペタペタ、という不気味な音。のぞき穴の向こうには…」というコラムでお話ししました。今回は恐怖の実体験、第二弾。ぜひご覧ください。
のぞきあなおじさん

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当時住んでいたマンションの一階に住むおじさんは、とてもやさしく気さくな人でした。いつもゴミ出しのたびにすれ違うのですが、朝から明るく挨拶をしてくれます。
あるとき、燃えるゴミの日が祝日で、寝坊してしまいました。しかし、ゴミ出しには間に合いました。なぜならインターホンの音で起こされたからです。
画面に映っていたのは、一階のおじさんでした。「ゴミ、出したかい?」と言われ、慌てて出したら間に合ったのです。
でもなんで、私が寝坊したことがわかったのでしょうか。
またあるとき、仕事の残業で帰りが遅くなった日がありました。次の日の朝ゴミ捨て場の前で、おじさんに「きのうはお疲れさま、遅かったね」と栄養ドリンクをもらいました。
…なぜ、私の帰りが遅かったのを知っていたのでしょうか。
そのマンションは10階建てで、エレベーターを降りた正面におじさんの家の玄関が見えるつくりになっています。つまり、部屋の中からのぞき穴を見れば、エレベーターから出てくる人の姿が見えるのです。
いま思えば、おじさんはのぞき穴から私の生活をずっと眺めていたのだと思います。
霊感体質

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大学生のころ、私はハンバーガー屋さんでバイトしていました。そのバイトの先輩は、いわゆる霊感体質でした。
「私、見えちゃうんだよね」
閉店後の薄暗い店内を清掃中にそんなことを言い出すもんだから、私はマネージャーと一緒に震え上がりました。お化けが見える人ってマジでいるんだ、こわ…と、マネージャーが言っていたのをよく覚えています。
そんなある日、休憩室で大学生の田中くんと話していると、先輩がやってきてこう言い放ちました。
「憑いてるね」
「え、いきなりなんですか?ぼ、ぼく、お化け憑いてるんですか…?」
「田中くん、きのうどこか行ったよね?」
「じ、実は昨日サークル仲間と飲んでて、帰りに墓地を通ったんですよね。そしたら、肝試しするぞ~ってなって…」
「あー。それはダメだわ。完全に怒り買っちゃってる」
「そんな…」
さっきまで新作のゲームの話題で盛り上がっていた私と田中くんは、顔を見合わせました。
「どうすれば…?」
涙目で私に助けを求めてくる田中くん。私もあわあわとするしかありませんでした。
「よかったらお祓いしようか?私の姉がね、お祓いできる人なんだけど…」
次の日さっそく田中くんは先輩の実家にお邪魔し、お姉さんにお祓いをしてもらったそうです。本当は3万円かかるところを、知り合い価格ということで3,000円になったといいます。
「なんだか肩が軽い気がします」
嬉しそうに話してくる田中くんを見て少し安心しました。
「一緒に行った友達もみんなお祓いしてもらうことにしました。5人まとめてやってくれるっていうんで」
「ふざけて墓地なんて行くもんじゃないね。いい勉強になったんじゃない?」
「ほんとですよ。お化けとか見えないけど、霊感ある人に言われたらやべってなりますね」
それから1カ月後、田中くんの様子がおかしくなってきました。いつもどこかソワソワと落ち着かない表情だったし、夜遅いシフトを避けるようにもなったのです。まるで何かから逃げているような…。
「田中くん、大丈夫?最近変だよ」
キッチンの後片付けをしている田中くんに、マネージャーが声をかけました。この日は私とマネージャーと田中くん、3人のシフトです。
「マネージャー…僕、たぶん呪われてるんです」
そう言ったとたん、田中くんはぼろぼろと涙を流し始めました。聞けば、最近誰かにあとをつけられているといいます。さらに玄関にお札が張られたり、無言の電話がかかってきたり、夜中にインターホンが鳴らされることもあるのだそう。
「え、大丈夫?」
「きっと墓地に行ったの、まだ許してもらえていないんです。実は僕、あのとき墓地においてあったお供え物みたいなもの、倒しちゃったかもしれないんですよね。すぐ直したけど、罰が当たったんだ…」
「それ、先輩には相談したの?」
「しました。それでもう2回ほどお祓いしてもらったんです。家にも来てもらって、お札も置いてもらいました。でも一向にやまなくて…。それで、もしかしたら命の危険があるかもしれないから、もっときちんとお祓いしたほうがいいって言われました。お祓い料、10万円かかるらしいんですけど」
思わず「えっ」と声が出ました。大学生の一人暮らしで10万円はポンと出せる金額じゃありません。しかし田中くんは『コツコツ貯めてた貯金を崩せばなんとか…』と口にします。
ガタガタと震える田中くんの肩に、マネージャーがそっと手をのせました。
「とりあえず、きょうは俺が車で送るよ。それと、たぶん親御さんにも相談したほうがいいかもしれないね。なんせ10万円って…大金だから」
閉店後、店の鍵を閉めてマネージャーの車に乗ります。私もついでに送ってもらえることになりました。
田中くんは夏の間、いつも自転車でバイトに通っています。話を聞けば、最近家の近くの電柱から誰かにのぞかれている気もするんだそうです。
「あの電柱です。遠回りしたいんですけど、どう迂回してもあの電柱の近くは通らないといけなくて…」
田中くんが指さす先の電柱を、私とマネージャーが見つめました。ゆっくり、車が電柱へと近づいていきます。ふわぁと、ライトが電柱を照らしました。
そこには、白い服を着た女が立っていました。
「ひっっ!?」
全員が声にならない声を出します。マネージャーはスピードを上げて田中くんの家を通り過ぎ、そのまま車を走らせました。
「み、見た?」
ようやくコンビニの駐車場に止まったところで、マネージャーが言います。見ました、と私は力強くうなずきました。助手席に座っていた田中くんが、足を抱きかかえてぶるぶると震えていたのをよく覚えています。
すると、マネージャーがおもむろにスマホを取り出し、ドライブレコーダーの映像を確認し始めました。
「ちょっと?!ドラレコの映像なんて見たら呪われますよ!?やばいですって、呪いのビデオじゃないですか!」
「いや、でも一応確認しておきたくて。田中くんは目つぶってていいから」
時間が巻き戻っていきます。だんだんとあの電柱の場所に近づいてきました。
「あ」
ゆっくり巻き戻して移った人影を見て、私もマネージャーも言葉を失いました。それはお化けでもなんでもなく、白いワンピースに身を包んだ先輩だったのです。運転席のマネージャーに気づき、少し動揺しているような気もしました。
先輩は自らお化け役となり、田中くんを脅していたのです。危うく、田中くんは先輩に10万円を支払うところでした。
マネージャーは先輩を呼び出し、「ここで何をしてたの?」と問い詰めました。「それ私じゃないです」と否定し続けたそうですが、問い詰めた次の日から先輩はバイト先に来なくなりました。