部屋にふたりきり。突き刺さる彼の一言
ベランダのカーテンを勢いよく開けた後、彼氏はベランダの男性を部屋に入れる。男性は素っ裸で、ガタガタとベランダで震えていた。部屋に入ってからもなお、奥歯をカチカチと震わせている。
「君は誰?」
彼氏が全裸の男性に冷たい声で問いかける。
「えっと、昨日彼女さんと飲んでいるときに出会いまして、声をかけたんです」
正座したまま、男性は返事をする。私もその隣で正座をし、床をなんとなく眺める。もう「どうしよう」とか考えても無駄。そう気づいてから、やけに冷静だった。
「名前は?」
「杉浦と言います」
へえ、この人杉浦くんっていうんだ。名前も知らなかったな。
「きのう初めて会ったの?」
「はい、すみません。彼氏がいるって知りませんでした」
「そっか」
そうだ、彼氏がいるって言わなかった気がする。
「彼氏がいるのを知らないで、同棲中の女の家に行き、気づいたら彼氏に説教されてるって感じだ」
「…はい」
全裸のまま、男性はうつむく。私も、うつむく。
「じゃあ、帰っていいよ。知らなかったんだもんね」
彼氏は紙袋に入れたままだった靴を杉浦くんに渡した。ベッド下から服を引っ張り出した杉浦くんは、枕元に放置されていたスマホを持って、そそくさと寝室を後にする。廊下で着替えたのだろう、しばらくすると杉浦君が家を出ていく音がした。ガチャリ、と。
その間、彼氏は無言で私を見つめている。全裸の私をだ。
「ごめんなさい…」
うつむいたまま言葉を絞り出す。
「俺が帰ってこなかったら、ずっと知らないままだったってことだよね」
「…そうです」
「浮気してるって自覚は?」
「…ありました」
はあ、と大きなため息が聞こえた。
「最悪だよ」
一言。そのたった一言が、心の深くにブスリと突き刺さった。そのまま彼も家を出ていった。それから3日間、彼は帰ってこなかった。