あしたも、あさっても。この恋を止める手段から目をそらした

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その日から、私と陸くんの秘密の恋が始まった。
「秘密の恋」と言ってしまえば美しいが、やっていることはただの不倫。バレたらただじゃすまないことは重々承知だった。しかしそのスリルが快感になっていたのだ。
私は仕事をしていたから、会えるのは昼のほんの数分だけ。たまたま陸くんの大学とオフィスが近かったので、車のなかでこっそりデートを楽しんだ。
ただ、さっき陸くんを抱きしめたこの手で、夫を愛する…それができなかった。だから帰宅後はすぐにシャワーを浴びるようになり、夫にはそれが怪しまれるようになった。「最近スポーツジムに通うようになったんだよね」と言い訳をし、実際に陸くんが通っているジムにも入会した。
「こんな関係続けてても、陸くんにはメリットないと思うよ」
一度そう言ったことがある。
「俺が由紀さんを好きになっちゃったから、もう止められないんですよ。だからいいんです」
その言葉を「そうだよね」と受け止めてしまった。だって好きなんだもん、仕方ないでしょう?
知らないうちに散りばめられていた、証拠たち

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「あした車で通勤したいんだけどいいかな」
我が家は一台の車をふたりでシェアしている。普段は私が通勤に使っていて、夫は電車だ。
「うん、いいよ」
何も気にせず、私は夫に車のカギを渡す。そして事件は次の日に起きた。
「ダッシュボードにゴム入ってたんだけど、使ったことあったっけ」
夫がカバンのなかから、ゴムの箱を出してきた。数個使った痕跡のあるその箱を見て、私の心臓が飛び跳ねる。家に置いていたらまずいからと、車のなかにしまっていたのをすっかり忘れていた。
「なにそれ、いつのだろう?昔に買ったとかじゃない?」
すかさず、しらばっくれる。「いつの?こわーい」なんて言いながら、何も気に留めないふりをする。
「そっか、じゃあ捨てとくか…」
夫も気にしていないようで、そのまま燃えるゴミに捨てていた。ホッと胸をなでおろす。ほかには何か、証拠とか残ってなかったっけ?…何もないよねと自分に言い聞かせた。
「あ、そうだ。来週の金曜日出張になったんだよね、一泊してくるから」
「わぁ珍しい。どこにいくの?」
「金沢。久しぶりだからちょっと緊張してる」
「あはは、そうだよね。お土産待ってるね」
不倫がバレるかと思ってドキドキした直後、うれしい報告を聞いてワクワクが止まらなかった。一晩いないってことは、お泊りできるってことじゃない?ニヤニヤを必死で抑えて、私は金曜日、陸くんを家に呼ぶことにした。