不倫がバレた瞬間、私はただの惨めな女だった

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震える手でようやく服を着て、リビングに向かう。夫を慰める私の父と、鬼の形相で立ち上がり、こちらに迫ってくる母がいた。母の振り上げた手が、私の頬をとらえる。
「情けないよ!」
母の涙が、強くはたかれた頬の痛みをかき消す。顔を上げると、夫も涙を流してこちらをにらみつけていた。
「もう私…申し訳ないよ!」
母の怒鳴り声がリビングにこだまする。夫がため息をつきながら重い口を開けた。
「せめて相手の男が誠実なやつなら、俺もここまで感情的にならずに話し合いができたけど、あんな若者で、無責任なやつって。そんなやつに自分の嫁さん取られそうになってたの?情けなすぎて泣くしかないわ」
夫は自分のスマホを取り出して、動画を再生した。ドライブレコーダーの記録映像だった。
「あの車のドラレコ、車内音声もちゃんと録音してるって知ってた?」
きのうの昼間、陸くんと出かけたドライブ先の映像と、楽しそうに愛を語り合うふたりの会話が垂れ流される。
「しかも、スマホアプリで映像見れるって知ってた?俺さ、この前車を借りた後からずっと見てたんだよ」
血の気は引いていくのに、心臓がバクバクと音を立てる。うるさいぐらいに。
「あと、ジムで見たことあるよ。若い男と楽しそうにデートしてる由紀を」
私がジムに入ったと聞いた夫は、驚かせてやろうとこっそり同じジムに入会していたのだ。しかしそこで見たのは、若い男と仲睦まじく過ごしている私だった。
「友達でもできたのかなって見ないふりしてたけど、あのとき話しかければよかったね」
それから私は夫に謝罪し、二度とこのようなことはしないと頭を下げた。ごめんなさいと謝ることしかできなかった。
バカな自分を責め、額を床にこすりつける。不倫がバレた瞬間、人はみじめな生き物になるのだ。誰も味方なんてしてくれない。周囲の怒りを黙って受け止め、反省し続けるしかない。
両親が「慰謝料でもなんでもとって」「離婚したっていいから」と夫に言ったものの、夫はなんと私を許した。
「由紀が最低な女だってことはわかったよ。その場の勢いで平気で俺のこと裏切れるんだもんな。でも俺は、そんなお前のことを好きになっちゃったんだよ。最低なのは俺のほうなのかもな」
夫は「俺が悪いんだ」と責め、私と一緒にいることを選んだ。最低な自分は、最低な女といるのがお似合いだと、笑いながら言うのだ。
夫をこんな風にしてしまった、自分の過ちが許せない。許せなくて、でもどうやって償えばいいのかわからず、いま私はとにかく夫に愛を届けようと精一杯過ごしている。
あれから半年たったいまも、夫は私の目を見つめてくれない。もしかしたら、もう二度と許してもらえないのかもしれない。
新鮮なときめきも、はじめてのスリルも、「秘密の恋」と浮かれていたあの日々も、いま思えば全部勘違いだった。あぁ、不倫だなんてバカなこと、しなきゃよかった。後悔しても、もう遅いのだ。
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。