きっかけを作ったのは、誰?
それは3カ月前、7月のある日。私たち6人は日程を合わせ、お互いの彼氏たちと一緒にキャンプ旅行に出かけた。にぎやかな時間。友人たちと過ごす楽しい休日。そんななかで、私はひとり孤独を感じていた。
「優華だけかぁ、彼氏いないの」
小春が私の隣で野菜を切りながらつぶやいた。私はその横で少し気まずそうにする。
「なんか邪魔だったかな、みんなカップルなのに。私がいるから気を遣うでしょ」
「何言ってんの、そんなわけないでしょ!それなら恋人と2人で旅行しろって話だよ」
大丈夫大丈夫、と私を励ます小春。このときはまだ、小春の優しさがうれしくて身に染みていた。こんなに優しい友人に恵まれているんだし、いまは恋愛なんてどうでもいいやと、思っていたはずだった。
「優華ちゃん、手伝おうか」
車からクーラーボックスを出している私に、小春の彼氏、達樹が声をかけてくれた。
「わ、すみません…ありがとうございます」
達樹は私の手からするりとクーラーボックスを受け取り、自分の肩にかけた。
「これ、すっごい重たいね」
「私、手伝います!」
「大丈夫、俺男だよ?優華ちゃんに重たいもの持たせるわけにいかないし」
「でも」
「それにさっき、小春と一緒に野菜とか切ってくれたんだよね。ありがとう。そっちのほうが大変だったでしょ?」
達樹はニッコリ笑う。その笑顔に思わず心がはねた。
「小春、きょうのキャンプめっちゃ楽しみにしてたんだよ。俺も優華ちゃんが来るって聞いて楽しみだった」
「そうなんですか?」
「うん。優華ちゃんかわいいし話していて楽しいし、小春とは違うからさ」
それからも達樹は何かと私を気にかけ、声をかけてくれた。そのたびにやさしく笑いかけてくれる。トイレに向かっている途中ふらついた私を、後ろを歩いていた達樹がすかさず抱きとめてくれたこともあった。
小春の見ていないところで、達樹は私にどんどん接近してきたのだ。
浮気のはじまり、秘密の裏切り
うっかりときめいた私の気持ちは、音を立ててにぎやかに広がっていく。
どきどき、わくわく、ころころ。恋の音ってこんな感じ?人を好きになる瞬間ってこんな感じ?
しばらく恋なんてしてこなかった私にとって、ちいさな胸のときめきが恋に変わるのはあっという間だった。でも“親友の彼氏”だからねと、私は気持ちを封じ込めた。…はずだった。
さんざん飲んで騒いで疲れ果てた友人たちは、あっという間にそれぞれのテントのなかで眠りにつく。
私は小春のテントにお邪魔していた。しかし、カップルのテントのなかは気まずい。だから毛布を抱えて自分の車へ移動していたのだ。
「優華ちゃん」
後ろから突然声をかけられてびくり、と肩が跳ねる。振り返ると達樹がいた。
「眠れないの?」
「ええ、まあ…」
達樹は私の隣に近づいてくると、そっと頭に手を置く。
「俺、優華ちゃんと寝たいんだけどダメかな」
「え…?」
「気になるなぁって、思って。優華ちゃんのこと好きになっちゃったかも」
こうして私と達樹は、あっという間に浮気関係になった。自制心は一瞬で消えた。愛があればどんな関係だってかまわない。たとえそれが親友の彼氏だったとしても、これは真実の愛なんだから。
それから、小春と一緒に達樹が過ごしている時間を想像しては、小春を恨む日々が続いた。…私のほうがこの人を幸せにできるのに!
達樹から聞かされる小春の愚痴。「同棲も、めんどくさいんだよね」と呟く達樹が可哀想で仕方がない。
「そんな同棲ならやめちゃえばいいじゃん、無理してすることないよ」
「でもいまさら後には引けなくて…」
そんな達樹を見て、何とかしなきゃと思った。私が、彼を救ってあげなくちゃ。