「ひどい親戚」
きょうは、達樹の実家に結婚の挨拶をしに来ていた。いきなりの妊娠に結婚と、相手を驚かせることになるのは、重々承知だった。
それでも達樹の母親が自分の姑になるのだからと、私はドキドキしつつ、少し楽しみだったのだ。どんな人なんだろう?どうしたら仲良くなれるかな?自分の家族みたいに思ってくれたらいいなぁ。そう、1時間前までは。
「あの…育児で大変だったこととかってありますか?出産に備えて知っておきたくて」
ひととおり挨拶を済ませ、時の空白を埋めるようにあらゆる質問を投げかける。何とか話が盛り上がればと、思いつく限りのことを問いかけた。
「覚えてないわ。本でも読んだらいいんじゃないですかね」
達樹の母親はため息交じりに、仕方なさそうに私の話に答えた。父親はもう自室にこもったらしい。2階から競馬中継の音が漏れ聞こえてきた。挨拶を済ませ、一度会釈をしただけでさっさといなくなってしまったのだ。
父親ってそういうものなんだろうな、緊張するんだろうと思っていたが、どうやらそういうわけでもなさそうだ。母親も同じように、さっきから「早く終わってくれ」とオーラを出していたから。
挨拶をしたときから、ろくに目も合わさない。あちらから質問を振ってきたのは「小春ちゃんのお友達なの?」ということだけ。いまさら小春のことを聞いてどうするんだ。もうあの女との関係は終わったんだ。
よく「嫁姑戦争」という言葉を耳にする。姑との仲がぎくしゃくして悩む人がSNSには大勢いた。私もきっとその1人になるのだろう。それでも挨拶の段階でここまで歓迎されないのは、さすがに腹がたった。
「あの態度はひどいと思う。あなたの母親でも腹が立つわ」
私は帰りの助手席で、ハンドルを握る達樹に怒りを伝えた。
「いつもあんな感じの人なの?あれじゃ、結婚後も関わりたいとは思わないわ!絶対孫なんて抱かせてやらないんだから。抱きたいって泣かれても、絶対に」
私が鼻息荒く文句を呟いている間、達樹は隣で困った顔をしながら笑うだけだった。
その足で婚姻届を提出し、私は晴れて達樹の妻になった。親友から略奪し、結婚したのだ。これで、完全に勝者になった。