歓迎されていなかった、私
最初から私は達樹に愛されてなんていなかったのだ。所詮浮気相手でしかなくて、本命は小春のほうだった。
互いに気づいたときには、もう遅かった。私は妊娠し、結婚し、出産をして母親になった。もうあのころになんて戻れない。きっと達樹は、妊娠したから仕方なく私と一緒になっただけだ。
ふと思い立って小春のSNSをさかのぼると、達樹の両親や兄弟と楽しそうにBBQや釣りをしている写真があった。私の前では一度も笑わなかった義理の両親が、小春の前ではまるで別人のように笑っている。
「自分だけ舞い上がって、本当は誰にも歓迎されていなかったんだ」
もう涙も出なかった。真実を前に、ただ呆然とするしかなかった。でも、現実を飲み込むための時間はそれほどかからない。なぜなら本当は、心の深いところでそういうことだろうと、うっすら、小さく理解していたから。自分を正当化させるために、無理やり嘘をついていたから。
「ただいま」
いつも通り酒臭い様子の達樹が帰ってきた。私は指輪をまたそっと箱にしまって、ベッドから出る。リビングのドアを開けると、そこには顔を赤くした達樹がいた。
「お酒飲んできたの?」
「あ、うん、一杯だけ帰りにね」
一杯どころではないだろう。嘘だと気づいたが問い詰められなかった。せめていまは、結婚したときよりも愛してくれていたらいいなと願う。
「先にシャワー入ってこようかな、あんまりお腹空いてなくて」
立ち上がる達樹の背中を見送る。テーブルに残されたスマホが、ブブ、と小さく震えた。
<あしたも来るよね?週末の旅行楽しみにしてるね!>
たった一行だけなのに、すぐに気がついた。達樹は不倫をしている。