同じことを繰り返す男、もう遅い女
「ねえ!この人、誰?」
私は反射的にスマホを持って、脱衣所へ向かっていた。そこにはワイシャツの襟についたファンデーションを一生懸命落とす、達樹の姿。
「えっ、と、何?」
「週末、出張じゃないの?旅行って何?」
「何の話?」
「このメッセージ、見てよ!」
「俺のスマホ勝手に見たの?」
「勝手に見たんじゃない、私がタイミングよく見ちゃっただけ!」
「はぁ、ホント最悪」
「最悪って、言いたいのはこっちのほうなんだけど!」
バンッ
達樹が脱衣所のドアを殴った。寝室のほうで、我が子の泣き声がする。
「あのさ、自分も浮気して俺と結婚したんだろ?あのとき妊娠したのも、お前が『大丈夫だから』って言ったからじゃん。
俺は小春と結婚する気でいたのに、無理やり奪い取ってみんなの関係をぐちゃぐちゃにしたのはお前だろ?俺は母さんにも父さんにも愛想つかされて、それでも子どもができたから、何とか我慢しなきゃと思っていたのに!
俺が不倫するのくらいなんだよ。お前は勝ち組なんだろ?じゃあいいだろ、俺が不倫しようと何しようと、結婚できたんだからそれでいいはずだよな?」
子どもの泣き声が大きくなる。何も言い返せない私は、ただポロポロとあふれる涙をぬぐった。
幸せな結婚ができれば、それでいいとずっと思っていた。
現実はあまりにも幸せとは真逆で、私の生活はさまざまな犠牲のうえに成り立っていることを知った。だからいっそのこと達樹の不倫のせいにして、自分の悪いところから逃げたかった。
それでもなお幸せになろうとしがみつく自分に、私は心底腹が立った。人のせいにして、何とかなる問題じゃなかったんだ。