誰も許してくれないだろうけど、ただ進むしかなくて
春。達樹との離婚が成立し、私は実家近くのアパートに子どもと2人で越してきた。幸い保育園がすぐに見つかり、私は子どもを預けて事務員のパートを始めた。
久しぶりの仕事に最初は戸惑ったが、とにかくやるしかなかった。この子を育てるのは私しかいないのだ。
自分の勝手な行動で友人の人生も、家族の人生もめちゃくちゃにしてしまった。せめて子どもの人生までは狂わせないように、前に進み続けなければ。もう、自分ひとりの人生ではないのだから。
この世には因果応報という言葉がある。悪いことをすればいずれ自分に返ってくるのだ。その通りだと思う。小春の背負った痛みを無視して生きてきた私が、いまさら簡単に幸せになれるはずがないのだ。
でもうじうじ引きずっていられる余裕もない。前に進まなければいけない。止まっていてはいけない。
ブブッ
スマホがなった。段ボールから服を出す手を止めて、メッセージを開く。横には楽しそうに声を上げ、テレビに映るキャラクターを見つめている我が子がいた。
<やっと、謝ってくれたんだね>
それは小春からのメッセージだった。離婚が決まってすぐ、私は小春に電話した。電話には出てもらえなかったが、どうかブロックされていませんようにと願いながら、謝罪のLINEを送っていたのだ。
<子育て頑張って。まだあなたに直接会いたいとは思えないけど、子どもに罪はないからそこは応援しておく>
小春のメッセージを読んで、深く息を吐いた。何度謝ってもきっと小春の心が癒されることはないし、この関係が完全に元に戻る可能性もないだろう。それでも、小春からメッセージが返ってきて心底安心したのだ。
「頑張らなくちゃ」
隣でニコニコと笑う子どもをギュッと抱きしめる。何もかも失った暮らしのなかで、小さな命を抱えて。もう二度と、道を間違わないように。もう二度と、大切な人を手放さないように。
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。