Case4.ネイルサロンの家賃
「私が肩代わりした家賃はぜんぶで175万円です。もっと早く解約すれば家賃の給付金をもらえたのに、彼女のことを信用してしまって…」と恨み節をこぼすのは由美子さん(46歳)。彼女はネイルサロンを4店舗運営する経営者です。
2020年1月。由美子さんは、もっとも繁盛している店を友達の純子さん(33歳)に一任することにしました。
営業委託という形だったので、テナントの賃借人は由美子さんのまま。純子さんからのロイヤリティは毎月45万円に設定し、そのなかから大家へ毎月の家賃を支払う約束でしたが…そんな矢先に襲ってきたのが新型コロナウイルスの蔓延です。
緊急事態宣言下で感染を恐れ、2021年4月の利用者は激減。5月にロイヤリティの振込が停止しました。
そこで由美子さんが「家賃の25万円だけでいいですよ?」と投げかけると、純子さんは「了解です。大丈夫」と二つ返事。しかし、3カ月間振込は復活せず…。
見かねた由美子さんは「閉店しましょう」と提案するも、純子さんは「化粧品販売を始めます」と挽回に躍起。さらに3カ月が経過しましたが、振込は確認できませんでした。
2020年の年末、由美子さんはついに閉店を決断。家賃の支払は終了したものの、立替分は150万円に膨れ上がっていました。
国が3分の2まで補助する家賃支援給付金は2021年1月に終了。由美子さんは支給要件を満たしていたのに、申請が間に合いませんでした。
「協議の約束」で時効は1年延長できる!
「コロナで返済が無理なのはわかっています。でも直接、謝罪してほしい」と由美子さんは声を大にしますが、純子さんは合わせる顔がないのか…。
3度も会う約束をしたのに、すべてドタキャン。家賃の時効は弁済期日から5年ですが(169条)、由美子さんは「このまま踏み倒す気じゃ」と焦ります。
そこで筆者は「無駄じゃありません」と激励。由美子さんを守ってくれたのは、今回の法改正でした。
「協議を行う旨の合意」があれば、時効を1年間延長できるようになったのです(151条)。さらに合意を繰り返せば最長5年間の延長が可能に。
合意した証拠(書面もしくはデータ)が必要なので、筆者は「スマホにLINEのやり取りを残しておいて」と助言しました。
新制度により、由美子さんは純子さんの生活再建を待つことができたのです。
新制度によって救われるのは誰?
「ジ・コロナ」の問題に巻き込まれた4人の相談者。時効の延長によって請求権の消滅を免れた債権者(お金をもらう人)。
しかし、新制度によって救われるのは債務者(お金を払う人)も同じ。なぜなら、時効の延長によって緊急性は低下するからです。
こうして支払の再開に必要な収入の確保、ほかの支払の整理、生活の安定が実現するまでの時間が与えられます。コロナ後を視野に入れ、債権者はお互いのためを思い、新制度を活用してみてください。
- image by:Shutterstock
- ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。