子作りに前向きじゃない夫に、私は…<妻視点>
「出産おめでとう、これお祝い」
私と夫が訪れたのは、友人夫妻のもとだ。赤ちゃんが生まれ、3人家族になった友人たちを祝いに来た。
同じサークルで活動していて、大学生のときに付き合い始めた私と夫をずっとそばで応援してくれていた2人。家族が増えたと聞いたときは跳ね上がって喜び、夫と2人で真剣にプレゼントを選んだ。
あのときは、レスでも楽しい日々を過ごせていたんだよなと空しくなる。
夫の不倫疑惑が頭のなかをぐるぐるめぐって、最近は会話も減ってしまった。幸せそうな友人を目の前にすると、そんな自分がみじめでたまらなかった。
「どう?3人での暮らしって」
気持ちを切り替えようと友人に声をかけてみる。
「そうだね、大変なことも多いけど…やっぱりすごく幸せ!」
笑顔で赤ちゃんを抱っこする友人を見て、本当に幸せなんだろうなとぼんやり思った。
「2人は、そういう予定ないの?」
まさかそんな質問されるとは思っていなくて、思わず「え?」と聞き返してしまう。「あ、ごめん変なこと聞いたね」と彼が言うよりも早く、夫が答えた。
「俺たちは、そういうのまだ、ね」
一瞬期待してしまった。考えているところなんだとか、言ってもらえるのかと思った。でも夫の口から出てきたのは「まだ」という言葉。夫は、子作りを前向きに考えていない。
そのもやもやはそれからしばらく経っても消えず、帰宅してからも残っていた。むしろ帰宅して2人きりになったとたん、動揺が怒りに変わった。
「まだ、ってどういうことなの?」
「え、何の話?」
「子どもの話。まだ考えてないの?もう結婚して5年経ったんだよ?まだっていうならその理由とかいろいろ、私に教えてくれたっていいじゃん!」
「だって忙しそうだから、子どもの話はしづらくて…」
「私が何度も話そうって言ってたのに、拒否してたのはそっちでしょ?」
「拒否してたわけじゃ…」
怒る私を前にして、夫の戸惑いが伝わってきた。勝手に身体が震える。戸惑うのはこっちのほうだ。散々逃げ続けられて、やっと気持ちが聞けると思えば「まだ」と言われる。私のこれまでの時間は何だったのだろう。
「ちゃんと、私と向き合ってよ…」
ポロポロとまた涙があふれてくる。駅前で見かけた、夫の姿を思い出す。私には、あんなふうに笑いかけてくれない。
もう嫌だ、疲れた、ツラい、寂しい、愛してほしい、やりたいとか、そういうわけじゃなくて。私を見てほしい。私との将来を考えてほしい。もっと本音で語り合いたい。
思えば思うほど言葉が出てくる。夫の顔なんて見れなかった。口から勢いよく吐き出た言葉たちが夫を攻撃しているのも感じた。それでも止められなかった。一度溢れた思いを止めることができなかった。
「ごめん、俺…」
夫の言葉の続きを聞きたくなかった。また言い訳される、逃げられる。同じことの繰り返し。きっとそう。
しかし予想とは違っていた。夫は私を抱き寄せ、きつく、強く抱きしめる。
「逃げてばかりで、ごめん」
久しぶりに嗅いだ夫の香りは、どこか懐かしくて優しかった。これまでの時間を埋めるように、夫は強く私を抱きしめた。
うまく説明できるかわからないけれど…とゆっくり話し出した夫の胸のなかで、私はようやく安心して息を吸った。
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。