時代とともに結婚観や人生観が変化してきていますが、なぜか「童貞」に関する否定的な言説は払拭されないまま。童貞を卒業していない男性が笑いのネタとして扱われたりからかわれることも少なくなく、童貞であることを隠している人もいます。
複数の辞書によると、童貞とは「異性と性行為したことのない男性」を意味するとのこと。ですが、童貞かどうかについての認識にはやや個人差があるように思えます。
また、さまざまな辞書では童貞を異性間のものとして定義付けしていますが、いまや世界中で恋愛や結婚は性別に基づかない認識がスタンダードとなりつつありますよね。そのため、行為の内容よりも親密性や精神性に基づいた定義をする人もいるのです。
変化する童貞観

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渋谷知美さんの著書『日本の童貞』(文藝春秋)によると、戦前の日本では婚前にカラダを重ねないことは珍しいものではなかったといいます。
当時ほとんどの結婚がお見合いによるものであり、将来の妻のために童貞を貫く考えや、性病感染を恐れていたために女性、男性ともに婚前交渉しないと決めているケースもありました。
1960年ごろになると恋愛結婚する人が増えてきて、現代の自由恋愛へと発展。お見合いがセッティングされていた時代から、相手を見つけるのも恋愛や結婚をするのも自分次第となる時代へと突入します。そこから、世間の童貞観が変化したそうです。
自由恋愛が当たり前となるなかで、営みがより身近なものとなりました。そして、婚前まで童貞を貫くべきという概念から解放され、現代の「カラダを重ねるチャンスを獲得すべき」という考えが生まれたといえます。
「卒業」していない人はなぜネタにされるのか

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童貞いじりにはジェンダー観が大きく関わっていると考えられます。
女性と経験のない男性は一人前ではないと揶揄され、逆に経験人数が多い男性ほど自慢する傾向がありますよね。女性との経験の有無は、世間の「男らしさ」に埋め込まれたひとつの要素としてもあげられるのではないでしょうか。
そして、この世間の「男らしさ」をもたない男性に対して、異性との経験の有無について質問したり、ゲイであると憶測で決めつけたりと、ホモソーシャル(男性間の強い絆や結びつき)な考えを重視する人が多くいるのです。
ですが、行為自体に興味のない人や、性的対象が異性に向かない人、性的関心を抱かない人などさまざまな人が存在します。
経験をこなすほど一人前の男として評価される空気感があるのは、「男なら女と経験のあることが優越的立ち位置にいること」という考えが、無意識のうちに前提としてあるからだと考えられます。このホモソーシャルで女性軽視的な考えは、世間の童貞観と密接につながっているのではないでしょうか。
そして童貞という言葉には、「非モテ」といったネガティブなニュアンスが含まれることもあります。
「かっこいいのに童貞なんだ」「イケメンは女遊びが激しい」といった意見をよく耳にし、「童貞=何かコンプレックスをもっていたり、異性とコミュニケーションの取れない男性」「非童貞=自信のある男性」という認識が根底にあり、コンプレックスを抱くことやコミュニケーションをもつことですら否定的に捉えられます。
それらの認識は、童貞をネタにする対象とし、童貞をワケありであるかのように決めつける現代の価値観に当てはまるといえるでしょう。