残ったのは「どうしようもない証拠」

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その夜をどう過ごしたか、記憶に残らないくらいの衝撃を受けていたA子さんは、Bさんから連絡がないまま次の日を迎えます。
出社するとBさんは昨日よりやつれているのがひと目で分かり、それは「あの後何かあったのだ」と思わせるには十分でした。
声をかけられないまま午前中が終わるころ、部署に「Bさんが体調不良のため早退」の連絡が入り、A子さんのスマートフォンが鳴ります。
アプリに届いたメッセージには、Bさんの妻が昨日の自分たちの姿を写真に撮っていること、A子さんの素性について話してしまったこと、「別れないのなら慰謝料を請求する」と言われたことが長文で書かれていました。
妻が駐車場にいたのは「俺の体調を心配して迎えに来てくれていた」らしく、残業だと知っていたけど待っていた気持ちを想像すると、夫が知らない女性と仲睦まじく歩く姿がどれほどのショックを与えたか、A子さんは改めて背筋が凍る思いがしました。
「手をつないでいただけで不倫の証拠にはならないと反論したけど、意味ないよな。写真を見せられたけど、“何もない“は通らないと思った。不倫じゃなくても浮気だよ」
メッセージからはBさんの抵抗を諦めた様子が伝わってきて、A子さんの心はずっしりと鉛が詰め込まれたように重たくなります。
肉体関係を持ったと明らかにわかる証拠でなければ、実際は慰謝料なんて請求できない。以前、ホテルにいるときにふたりでインターネットの検索をし、記事を読んでそう話した記憶が蘇りました。
たとえその通りだとしても、妻の手に残された「ふたりにはどうしようもない証拠」は、ふたりの評価を落とすには十分に効果のあるものでした。
「後悔しても遅い」のが不倫
書かれていませんでしたが、Bさんの文章から、A子さんは「別れたがっている」と感じたそうです。
妻から突きつけられた「別れないのなら」にどう答えたのかは書いておらず、それがかえって「別れると言ったに違いない」と受け取れました。
その時点でBさんへの愛情はどうなっていたのか、「ばれたたことのショックが大きすぎて、続ける可能性なんてこれっぽっちもなかった」とA子さんは話します。
その写真がもし夫の手に渡れば、会社の人間が見てしまえば、ふたりは窮地に立たされます。どう取りつくろっても「一線を超えた状態」は伝わるし、撮られた状況についても妻に非はありません。
どこまでもいっても悪いのはふたりであり、何の言い訳も通用せず、後に残るのは「社内不倫で、お互いに既婚」という不名誉だけ。
それらの現実が頭をよぎりA子さんはパニックになりますが、隠すことに必死で不倫を打ち明けていた友人はおらず、誰にも相談できないのでした。
「本当に、後悔したの。不倫は最悪よ、絶対にするものじゃない」
これが、いまだにBさんと同じ部署で机を並べ、気まずい思いを抱えながら仕事をしているA子さんの実感です。
あれからすっぱりと連絡を断ったふたりでしたが、「写真を撮られた事実」は会社で顔を合わせるたびに蘇り、あれほど楽しんだ行為すら恥ずかしくなり、「なかったことにしたい」とA子さんは小さな声で繰り返します。
後悔しても遅いのが不倫です。ばれないように気をつけていても、何が起こるのかは本当にわかりません。
“関係を隠すための不毛な努力”がすべて無駄になる瞬間は、どんな不倫であっても可能性を避けられないのが現実です。
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