違和感
残業を終えて家に帰ると、駐車場が空っぽだった。まだ秀一は帰っていないらしい。
「秀一も残業かな…」
まだ仕事なら、お風呂はシャワーだけだろうか?疲れているだろうから、湯船にお湯を張っておいてあげようかな…なんとなく心配で連絡してみると、返事はすぐに返ってきた。
「『いま帰ってるとこ、遅くなってごめん』…か。秀一も最近なかなか忙しそうだなぁ」
家事を済ませてしばらくすると、お土産を片手に秀一も帰ってきた。
「ただいま、ごめんね遅くなって」
「おかえり!大丈夫?最近毎日遅いよね」
「ああ、新プロジェクトが始まってね。ちょっと数日は残業が続くかも」
秀一の会社も最近忙しいようだ。ここしばらく残業続きで、帰りが遅い日が続いている。
「そっか、あんまり無理しないでね」
「うん、ありがとう。そうだこれ、お詫びに」
手渡された紙袋の中には、最近人気のお菓子屋さんの、有名スイーツ。興奮気味に紙袋から出す。
「これ!ネットでバズってたやつ!」
「人気だっていうからさ、舞花も喜ぶかなと思って」
「ありがとう、うれしい!でもこのお店…隣の県だよね?ちょっとへんぴなところで、高速道路乗らないと買えないぐらい距離あった気がする」
ただ、何気ない会話の一端にある疑問だった。それに対し、秀一の動きが不自然に止まった。
「あ…そうなの?」
「うん。秀一が買ったんじゃないの?」
「取引先の人がくれたんだよね。みんな、奥さんにもっていきなよっていいうからもらってきたんだ」
「そうなんだ」
じゃあ遠慮なくいただこう。最初は素直にそう思った。でもなぜだか、喉の奥に小骨が刺さったかのような違和感が拭えない。
そしてその違和感は、さらに大きく膨れ上がることになる。
「…なにこれ」
秀一がお風呂に入っている間、いらないチラシや封筒の整理をしていると、その隙間に挟まっていた真新しいETCカードを見つけた。新車購入のタイミングで申し込みをした、まだ綺麗なままの券面。
「差し忘れてたのかな」
いやそんなはずはない。だってきのう、夜景を見に高速道路に乗ったときは、停まることなくスムーズにETCレーンを通過した。
入れっぱなしにしているはずなのに、なぜわざわざ外したの?
NEXT:2022年3月11日(金)更新予定
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。