舞花は、夫の秀一と楽しくラブラブな毎日を送っていた。
秀一が貯金をはたいて購入した新車には、気の早すぎるチャイルドシート。暖かな未来の家庭を想像し、舞花は幸せのど真ん中にいた。
そんなとき、なぜだか抜かれたまま放置されたETCカードを発見する。胸騒ぎが止まらない舞花は、衝撃の証拠を次々と発見していくことになる…。
第1話:私が抱いた夫への違和感。チャイルドシートを乗せた新車で彼は…
第2話:不倫の証拠
- 登場人物
- 舞花:この物語の主人公
- 秀一:舞花の夫
続く不審な行動と、消えない違和感

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積まれた封筒を片付けていたら、隙間から出てきたETCカード。どうしてわざわざ、車から取り出したのか?いつも差しっぱなしなのに。ざわざわとした胸騒ぎが止まらない。
「はぁ、いいお湯だったよ。舞花もあったかいうちに入っておいで…ん?どうした?」
ETCカードを持ったまま立ち尽くしている私に、お風呂上がりの秀一が声をかけてきた。
「これ、どうしたの?」
眼前に差し出したETCカード。秀一はほんの一瞬、ちらりと見て、すぐに笑顔を向けた。
「入れるの忘れてただけだよ」
「きのうは入ってたじゃん」
「そうだっけ?」
「うん。わざわざ外してどうしたのかなって」
「あー、記憶にないや。どうしたんだろうね」
ポリポリと頭をかいて、おかしいなぁとつぶやく。そっか、秀一ってちょっと忘れっぽいところあるもんな。そう自分に言い聞かせて、ETCカードを渡す。
「いれときなよ?高速乗らなきゃいけない、ってなったときに困るよ」
「うん、わかった。そうする」
しかし秀一は次の日もETCカードを入れなかった。その次の日も、そのまた次の日も、ETCカードは棚の上に置かれたままだった。
そんなある日のこと。
「ただいま、舞花。これおみやげ」
秀一が差し出したのは、隣の県で人気のパン屋の高級食パン。
「取引先の人にもらったんだよね」
「この間も隣の県のお菓子もらってたよね。最近多いね」
「ああ、取引先の人が隣県に住んでんだよ」
「へぇ…」
証拠

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月に1度の友人たちとのカフェ会。思い切って違和感を相談してみることにした。
「それだけで旦那さんが何かしてるよ、なんて言えないけど…」
「やっぱそうだよね。ごめん、ちょっと不思議だなって思っただけだから」
考えすぎか、と笑ってみる。
たったETCカード1枚を車に入れてなかっただけで、私は一体何に対して違和感を覚えたというのだろう。うっかり取り出しちゃって、入れ忘れちゃうことなんて誰でもあるはずだ。
まさか「高速道路を使った形跡がクレジットカードの明細に載らないように、わざとETCカードを外してる」なんてこと、あるはずない。
「あ、ねぇ舞花。その車ってドライブレコーダーついてる?」
「うん、ついてるよ」
「ドライブレコーダー見てみなよ。どこに行ったかとかわかるし、機種によっては車内音声も録音してるはず」
友人の話を聞いて、帰宅後私は恐る恐るドライブレコーダーの記録を見てみることにした。きょう秀一は電車通勤で残業予定。チャンスだった。
ドライブレコーダーはスマホとWi-Fi接続できるタイプなので、すぐに過去の記録も再生できる。一度大きく深呼吸をして、スマホのアプリ上に表示された記録を確認する。2人でドライブデートに出かけた次の日の日付をタップした。
何も変わった様子がないまま映像が流れていく。特に何もないじゃん、と思ったとき、ふと見覚えのある建物が映った。
あの日、後輩と一緒にランチをしていたお店だ。
「そういえば、信号待ちで秀一の車とそっくりな車を見た…」
時間を確認すると、私がランチをしていた時間と被っている。あのとき信号待ちをしていたのは、秀一だったのか。
「それでそのまま、高速道路に乗ったんだよね…」
車はそのまま高速道路を走り抜け、隣の県へと到着する。しばらくすると知らない駅の前で止まり、誰かが乗り込んできた。
音量を上げると、知らない女の声がする。
『ねぇしゅうくん、きょうは夜までいれるの?』
『うん、残業ってことにするから』
『じゃああのお店行こうよ、この間言ってたお菓子屋さん!』
『いいよ、いこっか』
『そのあとは、ホテルでも行く?』
『行く~!』
気づけば再生を停止していた。心臓がどくどくと、大きく脈を打つ。
「は…?」
「ただいま」
タイミングがいいのか、玄関から秀一の声がする。『残業』を終えて帰ってきたのか?
「おかえり」
「どうした?なんか険しい顔して…」
「いや、別に…」
そっか、とカバンを置く。スーツのジャケットを脱ぎながら何か話しかけてきているが、ちっとも耳に入ってこない。
「ねぇ、秀一。車に私以外の人って誰か乗せた?」
脱いだばかりのジャケットをハンガーにかける手が一瞬だけ止まった。しかしすぐに何事もないように、その手は丁寧にジャケットのシワを伸ばす。
「乗せてないよ。俺、家族しか乗せないって決めてるんだ」