第1話:私が抱いた夫への違和感。チャイルドシートを乗せた新車で彼は…
第2話:ホテルで夫と不倫相手を待ち伏せした妻、フロントで鉢合わせた3人の修羅場
再構築を選ぶ
後日、秀一は買ったばかりの新車を売った。そのお金に貯金を足して、不倫相手に返金したのだ。
「連絡先も消したよ、もう会わない。ぜったいに」
私にスマホを見せてくる秀一は、真剣な表情だった。
「それで、これからなんだけど…」
「私、いまはあなたとの子どもがほしいってちっとも思えない。それに、正直言って好きかどうかも分からない」
離婚、その2文字が常にちらつく。
「だから、私…」
パッと顔を上げると、秀一がまた泣きそうな顔でこちらを見ている。泣きたいのは私のほうだ。でももう、悲しみを通り越して涙も出なくなった。ただ心が痛い。
「もう絶対、舞花のこと裏切らないから。ごめんなさい。許してくれなくてもいい。でも、一度だけチャンスがほしい。お願いします」
また土下座をする秀一を見ていると、悲しさが込み上げてきた。この人はあの日、あの事件が起こってからきょうまで、何度私に土下座をしたのだろうか。土下座をすれば許されると思っているのだろうか。
私の気持ちは土下座なんかじゃ癒やされないのに。あの事実は変えられないのに。どうして。
そのまま、数週間が経った。
「舞花、おかえり。ご飯できてるよ」
秀一は前と変わらず優しい。あの、誰もが羨む夫の姿だ。
「うん、ありがとう」
私より帰りが早い日は、夕食を作って待ってくれていた。
「今度の土曜日なんだけどさ、久しぶりに温泉にでも行かない?あ…嫌なら、無理しなくていいんだ。ここの温泉、さっきテレビでやってたんだけどね、朝食がすごくおいしいんだって」
楽しそうに休日の予定をたてるところも変わらない。
「残業で疲れてるよね。俺洗い物もしておくから、先にお風呂入っておいでよ」
常に私を気遣ってくれるところも変わらない。秀一が私との関係改善のために最善を尽くしているのは十分に伝わってきた。
過去は変えられない。それでも未来はまだ、いくらでも変えられる。悔しいけど、どれだけひどいことをされたんだとしても、私は秀一のことが本気で嫌いになれなかった。
むしろ、やっぱり秀一が好きなんだと、自分の気持ちを再確認する。
「ムカつくなぁ…」
「ん?どうかした?」
洗い物をしようとエプロンを身につける秀一を見て、思わず声に出る。
「ううん。私、もう一度あなたと向き合ってみたいなって思って」
「舞花…」
「まだ、許せないんだけどさ」
泣きそうな顔でこちらを見つめてくる秀一を見ると、やっぱりモヤモヤした。泣きたいのはこっちだよと言いそうになる。でももう少し、一緒にいてみよう。
お風呂に入ろうとリビングを出ると、玄関にチラシや封筒の束が置いてあることに気づいた。
「秀一、ポストから出してここに置いたままじゃん」
郵便物をパラパラとめくっていると、私宛てに一枚の茶封筒が出てくる。送り主の名前はなかった。なぜか、妙な胸騒ぎがした。
「なにこれ…」
秀一に見せなければと思うより早く、気づけば封を開けてしまっていた。なかには、「チャイルドシート代」と書かれた請求書が1枚入っていた。
- image by:Shutterstock.com(イメージです)
- ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。