離婚してくれ
「もしかして、これって不倫なのかな」
俺はレトルトカレーを温めながらスマホで検索をする。
妻が帰ってこない、妻の様子がおかしい、妻の金遣いが荒い、妻がそっけない…。そこには「不倫のサイン」の文字が。
「まさか、夏美が不倫なんてしているはずがない」
結婚当初の夏美を思い出す。不倫ドラマを「見たくない」といってチャンネルを切り替えていた彼女の姿が、昨日のことのように頭に浮かぶ。
しかし一度不倫を疑うともう、不倫をしているとしか思えなくなってしまった。
「なぁ夏美」
土曜日の夜。ハイブランドのセットアップに身を包み、派手な化粧でまた街に繰り出そうとする夏美に俺は声をかけた。
「もしかして、ほかに男でもできた?」
「は?できてないけど」
「じゃあいつも誰と飲んでるの」
「友達だって言ってるでしょ、うるさいな」
「あの、俺夫なんだよね。聞く権利くらいあると思うよ」
「プライバシーとかないわけ?ほっといてよ。関係ないでしょ」
勢いよく玄関を出ていく夏美。
大丈夫、これはただの気まぐれ。ただ不機嫌なだけ。俺がきついことを言うと夏美はもっと怒って帰ってこなくなっちゃうかもしれない。黙って待っていなくちゃ。大丈夫、絶対もとに戻るはず。
しかし、1年経っても夏美の様子は変わる気配がなかった。
もはや夫婦間の会話もほとんどない。夏美はただ俺の給料を受け取り、銀行口座に振り分けるだけ。日中軽く掃除をして、夜は外に出かけていく。1週間に2回の夜遊びは、いつしか4回に増えていた。もう、何のために一緒に暮らしているのかわからなかった。
「夏美、離婚しよう」
その日、俺は出ていこうとする夏美にそっと声をかけた。ごめんなさいと謝ってほしかった。そんなこと言わないでとすがりついてほしかった。
「うん、わかった」
夏美はそのまま手をひらひらと振って外へと出ていく。
次の日朝起きると、夏美は家にいなかった。その代わりに、ダイニングテーブルの上に記名済みの離婚届が1枚置いてあっただけだった。
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