浮気、DV、借金、レス、義実家問題…離婚を考える理由は人それぞれ。
Webメディア「by them」は離婚経験者30名にアンケートを行い、経験者はどういった点で悩み、改善を試みて、離婚を選んだのか?さらに離婚後の心境についても伺いました。
今回は、不倫を繰り返す夫と離婚をした桃子さんの事例をご紹介します。いま「離婚すべきか?」「再構築か?」と悩んでいる方も、もしかすると解決の糸口が見つかるかもしれません。
- 本記事は離婚を推奨するものではなく、あくまで身近な例として離婚事例を紹介するものです。
- 登場人物はすべて仮名です。
- アンケート内容をもとに一部ストーリーを作成しています。
不倫を繰り返す夫との離婚
回答者プロフィール(すべて離婚当時)
- 年齢/職業:妻・桃子さん(53歳)/会社員
- 当時のパートナーの年齢/職業:夫・孝明さん(57歳)/会社員
- 子どもの有無/実親・義理家族との同居:2人/なし
- 結婚年数/離婚時期:6年/2021年ごろ
- お住まい:中・四国エリア
夫の不倫の始まりは…

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「ごめんなさい、もう二度としません。だから許してください」
夫、孝明(たかあき)のそんなみじめな姿を見たのは、結婚後はじめてだった。いや、付き合っているときもこんな姿を見たことはなかった。
桃子は生後半年の我が子を抱きかかえ、孝明の土下座姿を呆然と見つめる。
「もう不倫なんて絶対にしないから」
孝明の不倫に気づいたのは1カ月前のことだった。
飲み会が多く、帰りの遅い孝明。初めての育児で心身共に限界だった桃子は、そんな孝明に対して不満しかなかった。
そこに追い打ちをかけるように、孝明のスーツの胸ポケットからホテルのライターが出てくる。挙句の果てにスマホには「ゆきちゃん、きょうも楽しかったね。週末のお泊まりデートも楽しもうね」などという、とんでもないメールの送信履歴。
友人の手も借りつつSNSなどで不倫の証拠を集めた桃子は、発覚から1カ月後、孝明に不倫の証拠を突き付けたのだった。
半狂乱になりながら「不倫相手と別れろ」と、その場で孝明に電話までさせた。そして、いまに至るのだが…。
「桃子、俺これから頑張るからさ」
正直、桃子は不倫の証拠を突き付けてどうにかしてやろうなどと考えてはいなかった。ただ怒りに任せた勢いだった。
いまはもう、泣き続ける我が子に早くミルクをあげなければという考えでいっぱいだった。
「わかった…でももう二度としないで。今回だけだよ」
「うん、絶対しない。ありがとう」
不倫をされたのは腹が立つ。腹が立つが、いまはそれよりも腹を空かした我が子を泣き止ませることの方が大事だったのだ。だから桃子はここで、孝明を許してしまう。
不倫を「された」妻の努力

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孝明が桃子に誠心誠意の謝罪をしてから数日後のこと。桃子は1年ぶりに美容院へ向かった。
「個室もあるから、今度は赤ちゃん連れてきても大丈夫だよ。ぱぱっとカットするし」
長年担当してくれている美容師が、ニコニコしながら桃子を席に案内してくれる。
「でも1人で来ると、リフレッシュになるよね」
「そうなんです、産後初めてです。1人で出かけるの」
「そっかそっか。読みたい雑誌とかある?映画も見られるよ。せっかくだし、とことん楽しんで!」
美容師は桃子にタブレットを差し出す。久しぶりに雑誌や映画を眺めて、なんだかうれしい気持ちになった。
想像以上に大変な育児のなかで、自分の好きなことに使う時間はほとんどない。それに加えて一緒に育児をしていくはずの孝明は、不倫相手と過ごしていただけだった。
自分が孝明の不倫に気づかないままだったら、いまだに美容室には来れてなかったかもしれない。桃子は少しがっかりした。子育てを積極的に手伝うようになった孝明の姿が、なんだか期間限定のように思えて仕方がない。
それでも「あのとき泣きながら『女と別れて』と叫んだ私の想いは、きちんと孝明に届いたようだ」と、桃子は自分に言い聞かせる。
「どれくらいカットする?色はどうしようか」
美容師の声でハッと顔を上げ、鏡を見て桃子は驚愕した。そこには目の下に大きく濃いクマを作り、ボサボサの髪の毛を撫でつけ、疲れ果てた表情の女…いまの桃子自身がいた。
そんな見覚えのない自分を振り切るように思い切ってショートカットにし、髪もキレイに染めてもらった。気分展開になるはずだった。しかし桃子は、まだモヤモヤとした考えに支配されていた。
「女としての魅力がないもん。そりゃ不倫されて当然だよね…」
その日から、桃子は「不倫されないような自分」になるための努力をはじめた。夫好みの食事を用意したり、身だしなみに気を使ったり、優しく接するように心がけたり…。
「桃子、最近きれいになったね。どうしたの?」
「いや、ダメかな…」
「ううん、いいと思う。いつもありがとうね」
効果が現れたのか、孝明がそう優しく笑ったとき、桃子はもう大丈夫だと安心した。それまで「努力が水の泡だったらどうしよう」「また不倫されたらどうしよう」と不安だった心も、一瞬にしてほぐれた。
もう大丈夫、彼はここにいてくれる。桃子は安堵感に包まれながら、お腹に宿った新たな子の誕生を待ちわびるのだった。
最初の不倫から、2年後の冬だった。