再び、夫の不倫が発覚する
第二子が誕生して2カ月経ったころ、孝明が家にスマホを忘れた。出勤して1時間後のことである。
「パパ、スマホ忘れちゃったんだね。大丈夫かな?」
長男に話しかけながら、桃子はそのスマホを手に取る。そして、なんだか胸騒ぎがした。
「まさかね」
スマホにはロックがかかっている。桃子はそれを、いつも横目で見ていた謎の数字4桁で解除した。パスワードを盗み見し、さらに覚えていた自分に改めて気付き、結局心のなかでは信じ切れてなかったんだなと溜め息を吐く。その数字が何なのか、桃子は知らない。
かすかに震える指でメッセージアプリをタップすると、心臓の音が一気に早くなった。そこには、あのとき見た不倫相手の女「ゆき」とのやりとりが細かく残っていた。
『やっと育休明けたよ。ゆきに会えなくて寂しかった』
『そうだ、今度旅行しようよ。子どもいると全然行けなくてムカつく』
『嫁と行くよりゆきと行きたいから。嫁には育児に集中してもらっとく』
最近の孝明からは想像もつかない信じられない言葉の数々に、桃子は身体中のすべての血が沸騰しているような、やり場のない強い怒りを感じた。
それと同時に「やっぱり」という冷静さもどこかにあったのだ。指の震えはもう止まっている。
桃子は問題のやり取りを自分のスマホで撮影し、そっとある人に電話をかけた。孝明の母親だった。
義理の両親への報告、相談
およそ2年半前と同じ光景が桃子の前に広がっていた。神妙な面持ちで正座する孝明。ひたすら謝罪の言葉を繰り返し、桃子の前で頭を下げている。
あのときと違うのは、寝室で寝ている子どもが2人になったことと、桃子の隣に義理の両親が一緒にいることだった。
「最低だよ、あんたって子はほんと…」
こぶしを握り締め、怒りをあらわにする義母。義父は孝明のことをいまにも殴りだしそうなほど憤慨し、時折目頭をギュッと抑えていた。孝明の両親が一緒に怒ってくれたおかげで、桃子は少し冷静になれた。
「ごめんなさい、反省しています」
「謝るくらいなら、最初からこんなひどいことをするんじゃないよ!2回目だって?桃子さんの気持ちを考えたら、もう私たちどうしたらいいか…!」
義母が桃子の肩を優しく撫でる。
「桃子さんに感謝しなさい。私なら、絶対にあなたのこと許せないけど…」
数時間前、桃子からの電話を受け取った義母は「離婚を決断してもいいのよ」と声をかけてくれた。しかし、桃子のそばにはまだ小さな2人の子どもたち。2人のことを考えると、いますぐ離婚は決断できなかった。
「その代わり、私たちもあなたを監視します。これからは頻繁に見に来ますから」
本当は離婚したかった。二度としないって言ってたのにと、桃子は心のなかで静かに泣いた。このときから桃子は『次はもう、無理だ』と感じていた。