場違いな婚活パーティ
自分の知らない環境に足を踏み入れると、人間は思わず息を飲む。まさにリサもいま、そうしていた。会員制の婚活パーティと聞き、ただ大人の男性と知り合える社交場とだけ思っていた。しかし、リサの予想とは全く違う世界が広がっていた。
「俺は弁護士をしています。リサさんは?」
「わ、私はアパレルショップで働いていて…たまにモデルをしています」
「へぇ、そうなんだ」
男性たちはリサの職業を聞くなりニコニコと笑いながらその場を去っていく。リサはその態度に薄々「場違いな女」と思われていると感じていた。
「私はホテル経営をしていて、最近はインポートブランドのお店も開きました」
「海外でモデルをしています。あの雑誌知ってますか?最近はそちらに出させていただいて…」
「秘書をしています。英語ですか?ええもちろん、たしなむ程度ですが…」
リサは帰りたくて仕方がなかった。ここにいる女性たちのように華やかなキャリアを持っていないし、そこまで高級なブランド服にも身を包んでいない。
大粒のダイヤが似合うような女性でもないし、100万円を超えるようなバッグなんて持っていない。ここはリサにとって、まだ足を踏み入れてはいけない場所のようだった。
ボディメイクだって頑張ってる。カットモデルをやるくらいだから顔にも自信がある。アパレルショップで働いてるからおしゃれだって得意だ。
でもそういうことじゃぁ、なかった。真のハイクラス女性たちと同じ雰囲気なんて、いくら努力しても身につけることはできなかった。内からにじみ出るあのオーラがリサにはない。惨めだった。
「帰りたいな…」
誘ってくれた千晶は、いつの間にかいなくなっていた。
リサはウーロン茶の入ったグラスを持って、トボトボと壁際に移動する。「フリータイム」と言われて自由に参加者同士で話せる時間が始まったのだが、リサに話しかけてくる人など誰一人としていなかったからだ。
「すみません、隣あいてますか?」
急に声をかけられ、リサはパッと顔を上げる。ネイビーのスタイリッシュなスーツに身を包んだ男性がそこに立っていた。
ツーブロックの髪にはパーマがかかっており、今風のおしゃれなスタイルに仕上がっている。ひげはサッパリと剃られており、細身で爽やかな好青年。リサよりも少し年上ぐらいに感じた。
「あ、あいてます!こちら、どうぞ」
慌てて立ち上がり、席をどけようとする。
「待って待って、どこ行くの?俺、君と話したいんだけど」
リサは驚いて、声の主の顔をじっと見つめる。
「さっき話したの覚えてる?リサちゃん、だったよね。俺、歳近いですねって盛り上がったんだけど覚えてるかな」
「えっと…」
「リサちゃんの3つ上の、会社やってるって話してた…」
「あっ、賢一さん?」
「そう!よかった、思い出してくれて。ここに来てる女の人たち、みんなギラギラしててさぁ…リサちゃんは話しやすくて好きだなと思って」
賢一はそのままリサの隣に座ると楽しげに話し始めた。仕事の話、趣味の話、昔の話、今朝見たニュース。リサは賢一のイケメンっぷりと優しい口調、そしてスペックの高さに、すぐ心を奪われてしまった。