社長夫人の覚悟

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結婚式の二次会を終え、リサは倒れるようにベッドへ横たわった。
「疲れて先に帰って来ちゃったけど…やっぱり居ればよかったかなぁ」
賢一はまだハイスペックな友人たちとワイワイ騒いでいる。肩身の狭い結婚式。自分の友人たちの振る舞いには恥ずかしさを覚え、自分の両親の縮こまった姿には心臓がギュッと掴まれたような気持ちになった。
そんなストレスフルな結婚式に、疲れないはずがなかった。ただ幸せな気持ちだけで過ぎていくかと思っていたのに、想像とは真逆で、リサは終わったことにホッとしていた。
「とりあえず、式の写真SNSに上げよっと…ん?」
リサが写真を投稿しようとSNSを見ていると、公式マークのついた有名キャバ嬢たちにどんどんアカウントをフォローされる。何事かと思っていると、彼女たちがきょうの結婚式の写真を一斉に上げだした。
『いつもお世話になってる賢一さんの結婚式に行ってきました!』
リサは彼女たちの顔を見てハッと気づいた。賢一の招待客たちだ。どこかで見たことがあると思っていたのは、SNSで有名だったからだ。
「賢一さん、キャバクラ行くんだ…」
彼女たちのタイムラインはキラキラしていた。高級シャンパン、プレゼントのジュエリー、きらびやかな世界が広がっている。
「お金持ちの社長さんだもん、キャバクラくらい行くよね」
写真を眺めていると、賢一が女の子たちに高級シャンパンを大量に入れている写真もあった。思わずめまいがしそうになる。プレゼントをもらえるのは自分だけだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
「こんなことで動揺してたらダメよ、私は社長夫人なんだから」
そう何度も自分に言い聞かせる。
そのうち、きょう来たリサの友人女性たちが男性との密着した写真をストーリーにどんどん上げはじめた。賢一の友人男性たちだった。
「やだ…なんて下品なの?」
男性たちにデレデレと媚び、顔を赤くして密着している友人たち。リサはストーリーをそっと閉じ、迷わず友人をブロックした。
「呼ばなきゃよかった!私のレベルが下品で、低いって思われるじゃない!」
たしかに幸せだったはずなのに。肩を震わせるほどの怒りをあらわにし、リサは叫んだ。
「ハイクラスな女性たちはこんなことしない。男に媚びる必要なんてないのよ。だから、私の友達にふさわしくない!」
そのまま布団をかぶり、自分に言い聞かせる。きょう私は、賢一さんの妻になった。賢一さんの家族になった。
これまで過ごしてきた、「お金を持っていると勘違いしている人たち」とは別の、ほんとうに裕福な世界に足を踏み入れた。
だからいらない過去は全て捨てよう。いまの私にふさわしいのは、もっと自分を高めてくれる上品な友人たちの存在だ。
そう考えながら、自らの行動のおかしさに、リサはまた目をつぶるのだった。