初デートの結末は…
友人たちの心配をよそに、私は健太郎さんとの仲を縮めていった。都内の証券会社に勤める35歳の健太郎さんは、これまで仕事一筋で、恋愛とは一切無縁だったという。
そしてあっという間に初デートの日。私の目の前に現れた健太郎さんは、あの日見たときよりもずっとかっこよく見えた。グレーのシャツに黒いジャケットを羽織り、細身のデニムを合わせている。さりげなく手首に見えた腕時計が高級そうで、思わず「大人だ」と言いかけた。
デートは幸せすぎてまさに天国のようだった。
待ち合わせに選んでもらったカフェも、ずっと行きたかった話題のイベントも、ディナーに予約してくれたダイニングバーも、すべてこの上なくセンスがよかった。お姫様のように扱い続けてくれる健太郎さんに終始ときめきが止まらない。
「このお店すごくおしゃれ…健太郎さんはよく来られるんですか?」
「いやぁ…あまり来なくて。きょうのために一生懸命調べたんだ。気に入ってくれたかな…」
「もちろんです!お料理もおいしいし、雰囲気も最高だし…きょうのデート、ずっと忘れないと思います」
ワイングラスを傾けながら、テーブルの向こうでほんのり顔を赤くする健太郎さんを見た。このまま付き合えたらいいのに。
そんな思いを抱きながら、あっという間に帰る時間になった。
「きょうはありがとうございました、楽しかったです」
駅前で別れの挨拶をする。名残惜しさでつい「もう少し一緒に居たい」と言いそうになったがグッとこらえた。
海斗と別れてよかった。別れたときは散々な気持ちになったけれど、きっと健太郎さんに会うためにあの別れがあったんだ。この出会いを大事にしよう。
「もし健太郎さんがよければ、ですけど…またお出かけしたいです!」
「俺もだよ。すごく楽しかった」
健太郎さんの瞳をまっすぐ見つめる。ああ、帰りたくない。
「またと言わず、いますぐにでもどこかに行きたい気分」
「え?」
思わず心の声が漏れてしまったのかと思った。しかし、口を開いていたのは健太郎さんのほうだった。
「ダメかな。このあと…もう少し一緒に居たいなって思うんだけど」
ドクン、と心臓が動いた。
初めてのデートなんだからここは帰るのが正解よと囁く私と、おめでとう、両想いだね、早くイエスっていいなよと喜んでいる私。2人の自分に挟まれ、私は思考を止めてしまう。
「ごめん。嫌だったよね。ダメだなぁ俺…こんなんじゃ、美波ちゃんに引かれちゃうね」
「そんなことないです!私も…健太郎さんと一緒に居たいです」
バカだな。手を引かれるがまま向かった先は夜のホテル。そのまま身体を重ね、私は自分のバカさ加減から目をそらした。これじゃあ海斗と一緒。
「あのさ美波ちゃん。順番が逆になっちゃったんだけど、俺と付き合ってくれませんか?」
「もちろん…!」
先ほどまでの後悔をすべてほおり投げ、私は健太郎さんからの告白を承諾した。たとえどんな始まりだったとしても、大好きな人と一緒になれるならそれでいいんだ。海斗のようにはならない。海斗と同じような始まり方だったとしても、もう同じ失敗は繰り返さない。