出会いたくなかった人

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「この後はどう?暇?ホテル行こうよ」
「行かない」
「なんで?俺らさ、カラダの相性は最高だったわけじゃん?」
「そういう問題じゃないでしょう、もう無理だよ」
きつく睨みつけても、海斗はホテルに誘うのをやめようとはしなかった。どれだけ強く断っても、決して下がろうとはしない。私がそのうち折れるのを楽しみに待っているようだった。
「ねぇ、やめてって言ってるでしょ!」
「はぁ…めんどくせー女。俺に振られた恨みって感じ?どうせまだ俺に未練たらたらなんだからちょうどよくない?」
「ちょっと、やめて…!」
海斗が私の手首を強引につかんだところで、ふと目の前に人影が現れる。その人は、海斗がつかんだ私の腕をすぐに引き離した。
「何してんの」
同窓会に参加していた、吉永くんだった。
「美波、大丈夫?」
「う、うん…」
うなずきながらも震えが止まらない。想像していた以上に海斗の言動に恐怖を感じていたようだ。
「戻ろう、遅いからみんな心配してるよ」
「ありがとう…」
「おい、誰だよその男」
海斗が吉永くんの後ろから半笑いでこちらを見ている。
「わかった、新しくカラダの関係を持った男だろ。お兄さん、この女誰とでも寝る女だから気をつけたほうがいいっすよ~」
グッと唇を噛みしめる。海斗の言葉に怒りと虚しさが湧いてくる。
「どこの誰だか知りませんが…女性に対して最低な言葉を平気で口にできるあなたのほうがおかしいと思いますよ」
「は?」
「人の痛みがわからず、暴言さえ吐けば何でも自分の思い通りになると思っているんですか?初対面とはいえ、かわいそうすぎて…少しあなたに同情します。これまでの人生でその考え方を改める機会がなかったんですね」
「お前、何様だよ!」
海斗が拳を振り上げたタイミングで店員がやってくる。
「お客様!」
チッと舌打ちしてその場を離れる海斗の後ろ姿に、思わずざまぁみろと叫びたくなった。本音をグッとこらえ吉永くんのほうを見る。
「ありがとう、助けてくれて…」
「ううん。大丈夫だった?ごめんね、もっとガツンと言えたらよかったんだけど…」
怖かったよね、もっと早く気づけばよかった。そういう吉永くんの申し訳なさそうな顔に、思わず胸がギュッと締めつけられる。
「手震えてる…早くみんなのところに戻ろう。みんなにところに居たら少しは落ち着くかも」
「う、うん…」
そういって、吉永くんは私の手を引っ張る。吉永くんの手も、少し震えていた。
ただのクラスメイトなのに、震えるほど勇気を出して守ってくれたんだ。そう思うと嬉しくて仕方がなかった。吉永くんに気持ちが惹かれているのがわかった。
でも、ふと冷静になる。こんな簡単に人を好きになるから失敗するんだ。もっと人を見る目を養わないと。もっと落ち着いて判断しないと。