さつきは婚活パーティーで、バツイチの男性、蓮と知り合う。趣味や価値観の合う2人はすぐに意気投合。結婚が決まった。
ある日、姑と蓮から前回の離婚原因を聞いたさつき。あまりにもひどい元嫁の行動に「私は2人に優しくしたい」と心に決める。しかし、さつきの決意はボロボロに崩れていくのだった。
第一話:夫の過去
- 登場人物
- さつき:この物語の主人公
- 門倉蓮:さつきの夫
- 玲奈:蓮の元妻
夫と運命の出会い

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夫と知り合ったのは、3度目の婚活パーティーだった。30歳を過ぎ、そろそろ結婚相手を見つけたい…そう思った私が足を運んだその会で、運命的な出会いを果たしたのだ。
門倉蓮さん。36歳、バツイチ。
「別れた理由は、性格の不一致で…」
不安そうな顔をしていた私に気づいたのだろう。蓮さんは私が聞くよりも早く、離婚の理由を話してくれた。
お互いにサイクリングが趣味で、休日はジムに行くというのも同じ。ドライブが好きで、ふらりと車に乗って美味しいグルメや温泉を楽しむのが最高のリフレッシュ。そんな過ごし方もそっくり。
映画は吹き替えよりも字幕派。ホラーは苦手だけど絶叫マシンは好き。勉強はそんなに得意ではないけれど、謎解きクイズは盛り上がる。記念日は大切にしたいけど、量より質。お金ではなく、どう過ごすかが大事だよね。
そこまでお互いに話が合って、ああこれは運命かもと感じた。そこからはとんとん拍子だった。自然と連絡先を交換し、3回ほどデートを重ね、付き合い、先日入籍を済ませた。
「あんなに素敵なかたなのに、バツイチだなんてね」
「きっと相性が悪かったんだよ」
顔合わせの席でお手洗いに立った私は、実母と並んで話をしている。
「蓮さんのお母さん、とてもやさしそうな人で安心したわ。結婚って相手との相性も大事だけど、お姑さんとの相性も大事だからね」
「そうなんだ…。でもまぁ、大丈夫だよ」
「そうね。安心して任せられそう」
ホッとした表情で口紅を塗り直す母親の横顔を見て「お母さん、私幸せになるからね」と心のなかで誓った。誓ったはずだった。
実母のようにやさしくしてくれる姑

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「ごめんね、新婚さんのおうちにお泊まりに来るなんて…」
姑が申し訳なさそうにソファーへ腰かける。
「そんな。気にしないでください。私たち家族じゃないですか」
テーブルにお茶を出しながら、姑に笑いかけた。
都内の病院に検査入院をすることになったから、前日に一泊だけさせてくれないか。
申し訳なさそうに姑が電話をくれたのは、ちょうど2週間前だった。
「助かったよ、ありがとうね。ホテルを取ろうと思ったらどこも満室で、高い部屋しか空いてないっていうから…」
「ちょうど連休前ですもんね、仕方ないですよ」
この日のために、デパートでおいしいお菓子を調達しておいた。姑をもてなさないと。その一心で用意した渾身のお菓子をテーブルに出す。
「甘いものってお好きですか?よかったら召し上がってください」
「まぁ、ありがとう。私ここのお店大好きなの!」
嬉しそうにパウンドケーキを手に取る姑を見てホッとする。よかった。気に入ってくれたようだ。
安心していると、仕事を早く終えた蓮が帰ってくる。きょうは金曜日。私だけに自分の母親をもてなしてもらうのは悪いからと、午後休をとってくれたらしい。
「さつき、ありがとう。遅くなってごめんね」
駅から走って帰ってきたのだろう。息を切らしながらリビングに入ってきた蓮は、呼吸を整えながらネクタイを緩める。
「母さん、くるときは何もなかった?」
「ないよぉ、さつきさんが駅まで迎えに来てくれたから」
「え!?さつき、駅まで行ったの?」
「うん」
姑に媚びを売りたかったわけではないが、家でじっと待っているよりも、駅まで迎えに行ったほうがいいだろうと思った。それに大きなトランクを抱えて駅から出てきた姑を見たとき「迎えに来てよかった」と素直に感じた。
「本当、さつきさんは前の奥さんと違って優しいわぁ…。私、こんなにいいお嫁さんをもらっていいのかなっていまでも思うよ」
「そうだね…本当、俺もさつきと結婚してよかったと思ってるよ」
そして、不意に始まった過去の話。私は初めて蓮の離婚原因を知ることになった。