離婚の理由
蓮が元妻の玲奈さんと結婚したのは、4年ほど前のことだったという。
「全然家事をしない人でさ、仕事から帰ってきたらいつも出前かその辺のファーストフード。ひどいときにはコンビニで買って来いって、千円札置かれてたこともあったっけ」
玲奈さんは看護師。結婚前に「仕事を辞めて専業主婦になってもいいんだよ」と蓮が言ったものの、仕事が好きだからと働き続けたんだそうだ。
「なんで作ってくれないの?って聞いたら、仕事が忙しいからっていうんだ。仕方ないなと思って俺が作ろうとしたんだけど…俺もそんなうまく作れないから、結局そんな感じの食生活が続くよね」
さらにこれがほしい、あれ買ってとわがまま放題。自分の給料で買ったらどうだと提案しても「こういうのは男性がプレゼントするべきだ」と逆切れ…。
「つまり、わがまま放題で家事もしない奥さんだったってこと?」
「そう、しかもそれだけじゃないんだ…ねぇ」
蓮は自分の母親の顔色を伺うように、恐る恐る顔を上げる。あの話をしてもいいかと、許可を取っているようだった。
「私から話すわ。そうねぇ…さつきさんは驚くかもしれないけど、世の中には老人を邪魔者扱いする人も一定数居るのよ。それが玲奈さんだったの」
「え?邪魔って…」
「私がたまにおうちにお邪魔するとね、いつもすごいため息をつかれて…。お料理を作ってもてなしてくれたと思ったらすごく塩辛かったり、お泊まりするときはお布団がすごい臭かったり…」
「そんな、ひどい」
玲奈さんが仕掛けたという粘着質な嫌がらせの数々に、思わず絶句してしまう。
「つまり、そうした数々の嫌がらせが原因で別れた…ということですか?」
「それが、離婚の原因は不倫なんだ」
蓮が苦笑いをしながら語り始める。横で姑は、悲しそうに縮こまっていた。
「ある日俺が仕事から帰ったら、見知らぬ男性と2人でリビングにいたんだ。誰だよと思って問い詰めたら『関係ないでしょ』ってキレだして…ああ、これは不倫だったんだなぁって」
「そんな…」
「最低だって話をしたら暴言吐かれてさ。母さんのことまで罵倒されて…そのまま離婚」
「そうだったんだ…」
そんなことをし始めたきっかけはなんだったんだろう。愛し合って結婚したはずの2人が、こんな結末を迎えたきっかけは?
玲奈さんの行動をちっとも理解できず、私はただただ蓮と姑が可哀想で仕方がなかった。
どうしてこんなに優しい人たちが、理不尽にいじめられなくてはいけなかったのだろう。一体なぜ?私は、2人にめいっぱいの愛情を注いであげたい…!
「私、お義母さんが心配だな。一人暮らしで持病もあるんでしょう?うちからご実家まではなかなか距離もあるし、何かあったときにすぐ駆けつけられないのが不安で…」
気づけば、ほぼ毎日姑の身を案じるようになっていた。
「ありがとうね、さつき。俺の母さんのことそんなに心配してくれるなんて」
「だって、私のお母さんでもあるじゃない…」
そんな私の話を聞いた蓮が、ある日提案をしてきた。
「なぁ、さつきさえよければなんだけど」
「うん、何?」
「母さんと一緒に暮らさないか」
断る理由がなかった。きっと、そう提案されるのを待っていたのかもしれない。こうして、私は姑との同居を始めることになった。