離婚するための作戦
「もしもし?きょう、よろしくね」
土曜日の朝。玄関前の掃き掃除をしてくる、と一言告げて外に出た私は計画通りに電話をかける。電話越しに心配そうな声が聞こえてくるものの、相手も何かを決意しているようだった。
「それじゃあ、電話繋げたままにしておくから…」
そのまま私は通話を繋げた電話をエプロンのポケットに入れ、自宅に戻った。
「お義母さん、きょう朝ごはんに食べようと思ってポテトサラダ作ってみたんです」
「ええ?そういうのいらないって言ったじゃない…あなたのご飯、おいしくないのよ」
「でも…いつも作ってくださってますし、土曜日くらい手伝わせてください」
この日のために昨日の夜から準備したポテトサラダ。母親直伝の、得意料理だ。
冷蔵庫から出してお皿に盛りつけ、テーブルに出す。普段通りの作業だったが、きょうは手が震えた。姑の冷たいまなざしが横から突き刺さる。
「本当にこれ、食べて大丈夫?」
蓮がテーブルのうえに置かれたポテトサラダを見て、あからさまに嫌そうな顔をする。
「大丈夫って…昨日味見したときはおいしかったよ」
怒鳴ってしまいそうになるのをグッとこらえた。そして蓮は、箸でひと口つまんで口に入れた。
「やっぱり、想像通りまずいわ」
「そんな」
「さつき。お前は料理が下手なんだよ、いい加減認めなって。どれだけ練習してももともとセンスがないから無理なの。何を作ってもまずいの」
言葉で殴られているようだった。ずっしりと沈んだ気持ちに追い打ちをかけるように、姑がお皿を取り上げる。
「食べ物がもったいないわぁ、かわいそう!」
「お義母さん?」
そのままキッチンのゴミ箱に、ポテトサラダを投げ捨てた。
「ちょっと…どうして捨てるんですか…!」
「だってこんなまずいもの、食卓に出せるわけないでしょう!しょっぱいし、おいしくないし、お腹を壊しそう!それとも何、私に悪いもの食わせて体壊してやろうっていうの?」
「え…?そんなわけ、ないじゃないですか…!」
「ひどい、ひどいわ。本当にひどい嫁…!蓮、なんでこんな人と結婚したのよ。私のこと殺そうとしているんだわ!」
わざとらしく床にしゃがみこんで、いつかの病院のときのように姑は泣きだした。
「ごめんなぁ。俺もこんなに出来損ないだとは思わなかったんだよ」
申し訳なさそうに姑に寄り添う蓮に、腹が立って仕方がなかった。
「さつき、お前自覚したほうがいいよ。何もできない、どうしようもない人間だって」
そのとき、インターホンが鳴った。