もしも、私が働けなくなったら…
「じゃあ、病気になって働けなくなったらどうするんだろうね」
「私が?」
「ううん、広大さんが」
久しぶりに会った友人にそんなことを聞かれた。しかし、それは先日夫に聞いたばかりだ。
「健康診断に毎年行ってるし、そうなったとしても保険がおりるし、何の問題もないって言ってたよ」
「すっごい自信。どこから沸いてくるの?」
「知らない…私が病気したとしても、貯金から出せよって話らしい」
「最低…あっ、ごめん。友達の旦那さんにひどいことを」
「いいのいいの。私も心のなかで、サイテーだなって思ってるから」
完全折半にしようと持ち掛けたのは夫だった。結婚前にお金の話をしたとき「それが一番揉めないって先輩が言ってたから」という理由で提案された。
私も特に考えもせず受け入れてしまったのが間違いだった。そのときはあまりお金の話を深くするのはきまずいなと感じていたのだ。おかげで、いま後悔しているというわけだ。
「このままじゃダメだなぁと思ってるけど…なかなかね、どうにもならないよね」
がっくりうなだれる私を前に、友人が提案をしてくれる。
「ねぇ、お姑さんに相談してみたら?」
その提案を受けた週の、土曜日。姑が家に遊びに来たタイミングで、思い切って相談することにした。
「お義母さん…なかなか相談しにくい話なんですけど、ちょっといいですか?」
夫が席を立ったタイミングで恐る恐る切り出してみる。
話を聞かない夫と違い、姑はいつも私の話に耳を傾けてくれた。世間一般的にはいい姑だと思う。
とはいえ自分の母親とはやっぱり違う。「なんでも相談してね」と言われてはいたものの、これまで相談したことはなかった。
「どうしたの?広大には言えない話?」
広大。夫の名前を聞いたとき少しヒヤリとした。自分の母親に嫁が家計のことについて相談していたなんて、あまりいい気はしないだろう。
「あの…実は家計のことで」
「うんうん」
「広大さんとはずっと完全折半でやってきたんです。でもそろそろ子どものことを考えると、完全折半は厳しいなって…」
それから私は自分の収入が低いこと、さらに夫が多くを出そうとはしないこと、産休・育休の間も出せと言われたことを話した。
「それは…」
ひと通り話を終えると、姑は少し黙った。
「うちの子、最低ね」
ポツリ、と言葉を吐いて、すぐにまた黙った。
「そんな考えだったのね。我が家がそうだったからかしら…。うちもね、ずっと共働きだったから完全折半だったのよ。でもお互いに同じくらいの収入だったし、出産とか入院のときは払えるほうが払うって感じだったわよ。毎月これだけは貯金するって言うのも決めてたし」
「そうだったんですか」
「広大も、臨機応変に対応するとか、収入の差を考えるとか、しないとねぇ…。相談してくれてありがとう。私、それとなく言ってみるわよ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
これで事態がいい方向に転べばいいなと、思っていた矢先に事故は起きたのだ。