恋人の秘密
「これは、昨日職場で『レンタル恋人って知ってる?』って話題になって調べたの。田中先輩がめちゃめちゃ興味あるらしくて、みんなで男性のスペックチェックしようよって話になったんだよね」
「本当に?」
「うん」
彼氏がいるのに彼氏をレンタルするって、普通に考えておかしいでしょ…と呟く。
悠馬がホッとした声で「ああよかった…」とつぶやき、顔を両手で覆い隠した。どうやら衝撃的だったらしい。私もさっき、そうだったんだけど。
「ややこしいことしないでよ、マジで驚いたじゃん」
「悠馬だってややこしいことしてたじゃん」
「そうだった、ごめんね」
お互いの誤解が解けたところで、私は止めていた映画を再生する。
映画のなかでヒロインが「絶対に内緒にしなくちゃいけないの」と、恋人の目を盗んでサプライズを考えていた。かわいらしい秘密をかかえるヒロインを見て、少し心臓がギュッとする。
「こんだけ一緒に居てさ、もう家族みたいなもんなのに、いまだに浮気してるんじゃないかって不安になるのよくないね」
ポツリと呟く悠馬の横顔がなんだか切なかった。
「私は普段、悠馬のこと信じてるよ?でもさ、ああいうの見ちゃうと『もしかして』って誰でも思うよ」
「そっか、そうだよね。俺もまさかそんなわけないだろって、すごいびっくりしたもん」
驚きすぎて寿命縮まったかも、といいつつワインを喉に流し込む悠馬を見て「そんなに?」と笑いながら話す。
そして気づかれないように、心のなかでそっと胸をなでおろした。
よかった。
もしもレンタル彼女のメンバーリストを見られていたら、ちょっと危なかったかもしれない。モザイクや加工で隠してもらっているけど、目元や体型の雰囲気で私だってバレたかもしれない。
悠馬に内緒で始めたレンタル彼女のバイト。副業としてそれなりに稼げるようになってきたから、もっと勤務できたらと思ってたけど…しばらくは危なそうだし、控えめにしてもらおう。
彼女がレンタル恋人を使っているよりも、彼女がレンタル彼女として働いているほうが、悠馬にとっては衝撃的だろう。不特定多数の男性の彼女になって、頻繁にデートをしているんだから。
私はネットの閲覧ページを消し、より一層気を付けようと身を引き締めるのだった。
- image by:Unsplash
- ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。