「相談女」の不気味なメール
妊娠5カ月に入り、少しだけお腹が大きくなってきた。ポッコリとしたお腹をそっと撫でる修平は、どこか緊張した面持ちである。それもそのはず、きょうは2人で一緒に妊婦検診に来ていた。
「結構夫婦で来る人、多いんだね。俺もこれからは付き添うようにしたいな」
産婦人科の待合室をぐるりと見渡す。さっき診察室でもらったエコー写真を見つめて、修平は感慨深そうにつぶやいた。
「パパになるのかぁ」
「そうだよ、もう半年後には赤ちゃんいるんだよ」
私がにっこりと笑いかけるのと同時に、名前が呼ばれる。
「会計してくる」
「おう」
あれからあの女の話しは特に聞かなかった。私から聞くことがなかったから、話さなかっただけかもしれない。でも特に修平が飲みに誘われることもなかったし、変な不安は気のせいだったんだろうなと思っていた。
「おまたせ」
会計を終えて修平の元に戻ると、何やら長文のメッセージを読んでいる。
「なにそれ、ながっ…」
「ああ…この間飲みに行った後輩の子覚えてる?あれからこうやって、相談メール送ってくるようになったんだよね」
「は?」
思わず大きな声が出た。
慌てて口を抑えて修平の腕を引っ張り、そそくさと病院を出る。
「あれから1カ月くらい経つけど、ずっとメールで相談に乗ってたの?」
「うん。飲みに誘われることもあったんだけど、俺が断ってたんだ。そしたらこうやってメールくるようになってさ」
「え、なんで?」
「俺にしか相談できないらしい。松永にも話してみたら?って言ったんだけど、あんまりそういう仲じゃないからって」
「だからって修平に、休みの日までメール送ってくるの?」
「うん。まぁ俺も、しょっちゅう返してるわけじゃないよ。見る?」
修平が読ませてくれたメッセージは、たしかに当たり障りのない返信ばかりだった。問題は女から送られてくる文章のほうだ。
「『おかげでプレゼンうまくいきました。修平先輩がいなかったら、私きっとダメでした…。修平先輩の顔を思い浮かべながら、きょうも頑張ります』…はぁ?」
「何その反応」
「いや、下心バレバレでしょ」
「下心?この子にそんなのないよ」
「ええ?あるでしょ!先輩の顔を思い浮かべて頑張ります~って、なんも思ってない相手に言う?言わないでしょ、普通」
「この子はそういう子なんじゃないの?いい子なんだよ、俺のアドバイス聞いてさ、毎日頑張ってる。成績も伸びてきたんだから」
心がズキズキと痛んだ。どうしてその子の肩を持つ?
「仕事で頑張りたいだけなら、仕事のときに相談すればよくない?わざわざ既婚男性に休日までメール送ってきて、馴れ馴れしい内容にする意味って何?」
「それだけ仕事熱心ってことだろ?」
唖然とした。修平は、彼女の下心に気づいていない。私が考えすぎなのだろうか?この子に警戒しすぎなだけだろうか。