お人好しすぎる夫
「なに、もしかして嫉妬してるの?」
ニヤニヤと私の顔を覗き込む修平に無性に腹が立った。これは嫉妬とかではなく、修平の配慮のなさへの怒り。
返す言葉も見つからないまま車のドアを開け、助手席に乗り込む。
そのとき、運転席に座った修平のスマホが一度振動した。
「ごめん、メール見ていい?」
「お好きにどうぞ」
またあの女からだろうか。せっかくの休日。夫婦の貴重な時間を知らない年下女とのメールのやり取りに削るなんて、やっぱりどう考えてもムカつく。
舌打ちしかける一歩手前で修平が私の方を振り向いた。
「ねえ、彼氏と喧嘩しちゃったって」
「は?その子彼氏いるの?」
「うん。同棲中の彼氏…なんか殴られたって言ってる」
「で?」
「助けてくださいって。俺、行かなきゃじゃない…?」
「ねぇ、それって本当に修平の役目なの?」
「でも、殴られたって言ってる女の子、放っておけないしょ」
「じゃあ私も行く。妻も行きますって言って、住所聞いて」
「…え?なんで?」
「おかしいでしょ、なんで既婚者の男性を頼るの?友達いないの?私の夫なんですけど」
せき止めていた怒りがボロボロとあふれ出す。イライラが止まらない。
「わ、わかったよ。聞いてみる」
案の定、その女は「妻も行く」という言葉を聞いて「大丈夫です、解決しました!」とすぐに返事をよこしてきた。
「あなたの優しくてお人好しすぎるところ、本当に好きだなぁって思うんだけどさ…」
運転席で申し訳なさそうに謝り続ける修平を見て、私は重たい口を開く。
「世の中にはそういう男性の良心に付け込んで近づこうとするヤバい女もいるんだって、ちょっと覚えておいてよね」
「はい…気をつけます」
もしあのとき修平が彼女を助けに行っていたら、そのまま帰ってこなかったんじゃないかと、少しの不安を抱くのであった。
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。