私が築きたかった家庭とは…
「またカレーかよー。パートで暇なんだから、もっと色んなレパートリー増やしてくれよ」
夜、カレーを目の前に文句を垂れ流す夫に対して、ゆかりは腹が立って仕方がなかった。
担任のかっこよさに触れたあとだからだろうか。文句を言いながらご飯を口に運ぶ夫の姿が、とにかくゆかりの気に障る。
「だってニンジンもジャガイモも余ってたし、肉じゃが作っても食べてくれないじゃない」
「煮物はご飯のおかずにならないんだから仕方ないだろ」
「だからおかずになるように、佃煮とかも作ってるでしょ」
「佃煮って…男が好きなメニューわかる?から揚げとか、とんかつとかさ、もっとガツンとくるものほしいなぁ」
そうやってわがままばっかり言ってきたから、先日の健康診断で引っ掛かったんでしょ。ゆかりは本音をグッと飲み込んだ。
結婚前はスマートだった夫。いまじゃ10キロ以上も太って、当時の面影なんてどこにもない。ゆかりを見下し、バカにすることが生きがいの、偉そうなただの同居人になった。
家族のために稼いでくれているからと、ゆかりはきょうも文句を飲み込む。
「お父さんさ、そんなに文句言うなら自分でご飯作れば?」
父親のわがままを見た娘の桜は、うんざりした顔で言い放つ。桜にとっては毎晩繰り返されるこの会話がうっとうしくて仕方がなかった。
「それは無理だろ。第一これは母さんの役目で…」
「じゃあ文句言わないで黙って食べなよ。役目って何?古いんだけど」
桜の言葉で食卓から口論が消える。会話も消える。
「誰に似てそんな生意気な口をきくようになったんだか…モテないぞ?そんな可愛げのない女」
「うざ…」
気づけば、ゆかりはテーブルの下で拳を握りしめていた。
娘への、思いやりのかけらもない、デリカシーなんてどこにもない夫の発言。それに加えて桜の言葉遣いやとげとげしい態度。もっと子ども想いな夫であってほしかった。もっと穏やかで優しい娘に育ってほしかった。
ゆかりは殺伐とした家庭内の雰囲気に不安を感じる。
せっかく佐々岡先生に出会ってほくほくとした気持ちだったのにと、なんだか悲しくなる。
私はこんな家庭を作りたくて、母親になったわけじゃない。