佐々岡との再会
佐々岡との再会は、想像以上に早く来た。懇談から1週間後の木曜日、突如家の電話が鳴ったのだ。
「はい、小泉です」
「もしもし、○×中学1年2組担任の佐々岡と申します。小泉桜さんのお母様でいらっしゃいますか?」
「はい、そうです…。娘がどうかなさいましたか?」
電話越しのスマートな声に、ゆかりはドキリとした。
「桜さん、ちょっと怪我をしてしまいまして…。傷が深いのと、出血が多いのとで、病院に行く必要があるかと」
「えっ!?桜が怪我ですか!?」
「はい。顎をですね、机の角で切ってしまったんです」
「は…?どんな状況ですか、それ」
「クラスメイトと少しじゃれ合っていたところ、そうなってしまったようです。僕も詳しく見ていなかったのですが…」
「じゃれ合ってそんなところ切りますか?それって…まさかとは思いますが、いじめとか…」
ゆかりの不安を察したのか、佐々岡はすぐに真相を調査をすると約束をしてくれた。
佐々岡からの調査結果は次の日の朝、すぐに出た。昼休み、ゆかりに電話をかけてきたのだ。
その日のうちに該当のクラスメイトを呼び、話しを詳しく聞いたのだという。さらにゆかりとも話しをし、結論なんでもないということがわかったのだった。
桜は傷口を3針縫うことになったがいじめではなく、本当に友人たちとのじゃれ合いで怪我をしただけだった。
「よかった…すみません、調べてくださって。ありがとうございます」
「いえいえ、僕もご心配をおかけしてしまい、まことに申し訳なく思っています…」
それから佐々岡は、ことあるごとにゆかりに電話をよこした。
友達との小さなトラブル、部活での些細ないざこざ、ちょっとした成績の低下、なんでもかんでも。ゆかりが不安を抱く隙を与えないよう、佐々岡はすぐに連絡をしてくるようになった。
それはまるで、ゆかりがこの先「モンスターペアレントにならないように」と予防するかの如く。教師になって間もない佐々岡なりの、努力。
「佐々岡先生って本当に素敵」
佐々岡の本心など知らず、ゆかりの想いは徐々にねじれていく。
「私の不安にこんなに寄り添ってくれるなんて。素敵だわ、先生としても、人間としても」
誰かさんとは大違い。優しくて、穏やかで。
その想いはみるみるうちにふくらんだ。気づけばゆかりにとって、佐々岡からの電話が日常の大きな楽しみになってしまっていた。