個人的な連絡先を教えてくれて…「特別扱い」
土曜日。部活から帰ってきた桜は、泣きはらした目をしていた。
「桜、どうしたの?嫌なことでもあったの?」
心配して問いかけるゆかりに、桜は冷たい声で言い放つ。
「ほっといて。お母さんに関係ないでしょ」
部屋のドアを勢いよく閉めて、それっきり。涙の理由も教えてもらえず、ゆかりの話にも耳を傾けてくれない。
「何かあったのかしら…学校に電話したらわかるかな…」
そう思って受話器をとり、すぐに置く。きょうは土曜日。佐々岡は出勤していない。
部活の顧問に聞いてみる?
「いや…やっぱり佐々岡先生しか信用できない…」
誰のために電話をかけるのか。誰のために相談をするのか。
ゆかりにとって、「桜のために」はもうすでに佐々岡に電話をかけるためのきっかけでしかなかった。本当の目的は佐々岡と会話をすること。
「桜も、いろんな先生にペラペラ相談されるのは嫌よね」
どうしようもない自分の考えにフタをして、見ないふりをする。佐々岡を担任ではなく、男性として意識し始めている自分の気持ちから目をそらす。
次の日、休日の不安はどこに相談すればいいんですかと困惑しながら電話をかけたゆかりに対して、佐々岡は個人的な連絡先を教えてきた。
「ほかの先生には言わないでくださいね。多分、あまりよくないことだと思うので…」
電話口でコソコソと話しをする佐々岡の声に、ゆかりはときめきが止まらなくなる。こんなに親切にしてくれるなんて。
ほかの保護者にはここまでしていないですよねと、佐々岡からの特別視に優越感にひたる。