やめられない、努力
1カ月後。
「おい、どうしたんだよその顔」
翔は美月の家に来ていた。
「やばいでしょ、軽くホラーじゃない?有給余ってたから活用させてもらったの」
「いや…行動力どうなってんだよ」
ガーゼで覆われた美月の鼻。顔はうっすらむくみ。腫れも見られる。
美月は鼻整形の手術を行っていた。手術後すぐはさすがに出勤ができないので、無理を言って1週間の休暇を取ったのだ。そんな美月の話を聞いた翔が、食べ物をもって様子を見に来てくれた。
「それ、どうなってんの?」
「鼻にプロテーゼっていうのをいれてもらったの。少し高さが出てね、鼻筋もスーッと通る予定。まだ腫れてて全然わからないけどね…お医者さんには抜糸してしばらくしたら落ち着いてくるよって言われたんだけど…」
「え、えっと。鼻になんかいれたの?」
「うん」
「切って、いれて、縫ったの?」
「うん、そうだけど」
「…良晴は知ってるの?」
「知らないよ、仕事が忙しいみたいで1カ月連絡もろくに取ってないし、そもそも言う必要ないでしょ」
「そう、だけど…どうしたのさ、急に」
あまりにも痛々しい顔だったのだろう、不安そうな顔で翔が正面に座る。美月は翔が買ってきたプリンのふたを開けた。
「コンプレックス解消だよ」
「二股されてたから?」
「んー、まぁそれもあるけど…一番は自分のためだって!」
「そっか…」
翔は何も言えず、うつむいた。
「こうすれば、私だけを見ていてくれるだろうなと思って」
「え?」
「私、良晴の前ですっぴんになるのが怖いの。化粧してたほうがかわいいねって言われたことあるから」
「は?あいつがそんなこと言ったの?それは最低…」
「沙織さんはさ、きっとすっぴんもすごく美人なんだよ。だから、私もすっぴん美人になって、良晴の心をもっと奪えたらなって」
「それは…」
「間違ってるって言いたい?努力するところが違うぞって、そう思ってるんでしょ」
「思ってないよ」
何か言いたそうで、でも言えない。翔の表情がもどかしさを語っていた。美月はそんな翔の顔を見て少し切なくなる。
良晴が二股なんてかけてるからだよ、沙織さんが美人なのが悪いんだよ、景子が一瞬でも沙織が勝ってるって思ったからだよ、あのとき翔がもっとうまく嘘ついてくれたらよかったんだよ。
頭のなかで人のせいにして、すぐにやめる。違う、誰かのせいじゃない。自分がやりたいからやってるんだよ。
勢いと恨めしさだけで行動している自分を、美月は理解できなかった。
「良晴、かわいいって言ってくれたらいいな」
「大丈夫だよ、何もしなくても美月はかわいいよ」
「翔に言われてもなぁ」
切なく笑った美月に対して、翔はさらに切なく笑う。
数日後、良晴からデートの誘いがきたが、美月は鼻の腫れがなかなか引かず、前日にキャンセルしてしまった。
それからしばらく、良晴との連絡はまた少なくなった。その間に良晴が沙織と旅行に行ったという情報を美月はキャッチした。
「このままじゃ捨てられちゃう…もっとかわいくならないと…」
しかし貯金はみるみる減っていく。沙織に勝とうとすればするほど、美月のお金はなくなっていくのだ。
「どうにかしてお金を稼がなくちゃ」
美月は導かれるように、パパ活サイトへ会員登録した。
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。