康介の嘘と真実
「ごめん、盛り上がりすぎて終電逃した」
康介からの電話が来たのは23時半を過ぎたころだった。
「気づいたらこんな時間で…」
「タクシーは?」
「車だとここから家まで50分くらいかかるし、タクシー代もったいないじゃん」
「50分って、どこのスポーツバーに行ってたの?」
「市内のところ…」
がっくりと頭を抱える。
「いまはどこにいるの?」
「ビジホ。安いとこ取れたんだよね、だから泊まって帰ることにする」
「そうなの…」
別にそこを節約しようとしなくていいのに、と言いかけて、やめる。もうすでにホテルにいる人に、いまさら帰ってきてというのもどうなんだ。
「もっと早く言ってくれたら迎えに行けたのに、お酒飲んじゃったよ」
「いやいや、ごめんね。ありがとう」
「うーん…まぁわかった。忘れ物とか気をつけてよ。あしたの朝、車で迎えに行こうか?」
「大丈夫だよ。土曜日なんだからゆっくり寝てて」
「わかった」
少しうんざりしながら電話を切る。こういうことも、まぁあるか…と納得してみる。そして5分後、康介から写真つきのメッセージが送られてきた。
「これって…」
こんな部屋だったよ、というメッセージとともに添えられていた写真を見て、私は言葉を失った。
先日Twitterでバズっていた、海の見えるリゾートホテルとまったく同じ室内だったからだ。
同じ県内にあると聞いて、ひそかにいこうと思っていたその宿は、予約しないと行けない人気のホテル。窓からのオーシャンビューと、デザイナーが心を込めてデザインした全室スイートルーム。都会から離れて、休日のリゾートステイを楽しもう。そんなコンセプトで作られたホテル。
いつか康介と行こう、そんな思いでお気に入りに登録してたホテルの内装と、康介の送ってきた写真がそっくりだった。
特徴的なベッドの天蓋が、ガラスでできたテーブルにうっすらと映っている。特注したという特徴的なベッドフレーム。デザイナーが特に心を込めたという大きな窓、それを覆い隠すラグジュアリーなカーテン。とても、ビジネスホテルとは言えない。
康介は、また嘘をついている。