サレ妻が考えた「作戦」
「ごめん、あさってから出張になっちゃった」
「あさって?ずいぶん急だね」
利樹が退院してから2週間後、私はコッソリ有給休暇を取り、出張を装って家を空ける計画を立てた。利樹と中塚の不倫現場を確実に記録したかったからだ。
あれから利樹と中塚はコッソリ2人きりで会い、デートをしているらしい。覗き見したスマホのメッセージから不倫デートをしていることはよくわかった。しかし、証拠写真が撮れない。
2人は直美が仕事をしている平日の昼間に、仕事のお昼休みの合間を縫って会っているからだ。
家で会えるとなれば家に来るんじゃないか?そう思った私の賭けだった。
私が自宅にいない日があれば、家に連れ込むんじゃないか?一晩じっくり会えるチャンスなんだから。
「しかも2泊3日なの。少し長いんだけど、その間食事とかどうする?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ!俺だって料理くらいできるし、まかせて」
ニコニコと笑う利樹に、「どうせあの女に料理作ってもらうんだろ?」と言いそうになる。
翌々日、私はこっそりリビングにカメラを仕掛けて家を出た。そんな簡単に不倫相手を連れ込むわけないよね、と少し期待しつつ。
ゴロゴロとトランクを抱え、出張を装ってビジネスホテルに向かっている自分が少し恥ずかしかった。ここまでして不倫の証拠を集める必要はあるんだろうか。病室でキスしてる写真を突きつけて、離婚しようって言えばそれでいいんじゃないだろうか。
ただ怒りと憎しみ、むなしさという感情に突き動かされて行動しているだけ。こんなことしないでサッサと別れたら、それでいいはず。
でも許せなかった。どうせなら慰謝料をたっぷりぶんどって離婚してやりたかった。あの女もコテンパンに叩きのめしてやりたかった。だから、このわけのわからない行動も無駄じゃないはずだと思いたかった。
想像通り、利樹は自宅に中塚を呼んでお泊まりデートをしはじめた。
ビジネスホテルの一室で、仕掛けたカメラの映像を見ながら缶ビールをあける。
映像の向こうで、2人は一緒にキッチンに立ち、ワインをあけ、寄り添いながら映画を見ていた。「診察ごっこで~す」なんて言いながら服を脱がせ始めたときは、いまから殴り込みに行こうかと思った。
私はそっと映像を録画し、ホテルの部屋を出る。いま1人でいたらどうにかなってしまいそうだ。
ホテルの最上階にある大浴場で、シャワーと一緒に涙を流した。
バカみたい。愛する利樹を支えようと思っていたのに、その裏で利樹は不倫をしていた。「私が支えてあげなくちゃ」なんて思っていた自分を殴りたくなった。