義母の理解できない行動

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恵介が生後5カ月を過ぎたころ、離乳食がはじまった。
あのとき義母が授乳しようとしていたのをそう簡単に忘れることはできない。しかし義母は離乳食作りを手伝ってくれるし、たまにあげるのを代わってくれる。結局、そのうち義母への感謝のほうが大きくなるのだった。
好き嫌いも特にせず、順調に進んでいく離乳食。そんなある日、私が恵介と一緒についつい昼寝をしてしまったときだった。
パッと目が覚めると、隣に寝ていたはずの恵介がいない。時刻は13:00。昼寝してもう1時間が経っていた。
「恵介…?」
部屋を見渡すものの、恵介はどこにもいない。
「恵介…!」
コロコロと転がってどこかに行ったのかと、昼寝していたリビングを見渡す。しかしそこには誰もいない。あるのはさっきまでたたんでいた洗濯物の山だけ。
そんなとき、ふと下の階から義母の声が聞こえたような気がした。
二世帯住宅の我が家は1階が義母の住居、2階が私たちの部屋になっている。
私は慌てて階段を駆け下り、義母の住居のリビングのドアを開けた。
「はい、あーん」
義母の目の前に座っていた恵介は、差し出されるスプーンに乗ったおかゆをまさに口のなかにいれようとしていた。
「やめてください!」
私は咄嗟に恵介の元に駆け寄り、恵介の口を手でふさぐ。義母の持っていたスプーンが一瞬指にこつんとあたって、すぐに引っ込んだ。
「あら、香織さん起きたのね」
「お義母さん、離乳食は決まった時間以外あげないでください。アレルギーとかもありますから」
「ああ、ごめんなさいね。でもおかゆは大丈夫でしょう?」
私は義母が持つスプーンをじっと見つめる。
そこに載せられたおかゆは、ついさっきまで義母の口のなかにあったものだ。
私が部屋に入ったとき、義母は口のなかにいれて噛んでいたおかゆをスプーンに出し、恵介の口に運ぼうとしていた。間違いなく、私はその光景を見た。
「口に入れたものは、やめてください。虫歯になるかもしれませんし」
「…私、ちゃんと歯磨きしてるわよ?」
「そういう問題じゃないです」
恵介を抱え、そっと義母から距離を置く。恵介はおかゆが食べたかったのか、わぁあ…と声をあげて泣き出した。
「ほら、泣いちゃった、かわいそうよ」
「ダメなんです、やめてください!」
つい大きな声で怒鳴ってしまってハッとする。目の前にはしょんぼりとした表情の義母が立っていた。
「ごめんなさいね、余計なことしちゃったみたい」
「いえ…すみません。私の方こそ…見ててくれて、ありがとうございました」
その日以降、義母が離乳食をあげようとすることは一切なかった。何事もなかったかのように孫をかわいがり、私にも優しくしてくれる。
しかし私は授乳しようとしていた光景も、口から出したおかゆをあげようとしていた光景も忘れられず、気づけば義母に生理的な気持ち悪さを感じるようになっていた。
そんなある日、私は高熱を出して寝込んでしまったのだ。
こういうとき、結局義母を頼ってしまう。家のことはほとんどせず育児にも無関心な夫より、親身になってサポートしてくれる義母のほうがよっぽど心強いし甘えやすい。
どれだけ気持ち悪いと思っていても、愛情深く恵介を愛してくれることに変わりはない。
義母はその日も、私が寝込んでいる間恵介と遊んでくれていた。
うとうとと眠りに落ちてしまいパッと目を覚ますと、家のなかがシンとしていることに気づく。重たい体をそっと起こし、私は寝室を出た。
自分たちの住居のリビングで、さっきまで義母は恵介と遊んでくれていた。義母がわざわざたたんでくれたのだろう。山になっていた洗濯物が片付いている。
リビングに誰もいないのを確認し、私は1階に降りる。義母の住居のリビングをノックし部屋に入るが、部屋はがらんと静まり返っていた。
「お義母さん…?」
寝ているのだろうかと思って寝室を覗いてみるが誰もいない。
なんだかいやな胸騒ぎを覚えて玄関に行くと、恵介のベビーカーと義母の靴がなくなっていた。義母が、恵介を連れていなくなった。
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