孫である恵介をとことん可愛がり、面倒を見てくれる義母。
夫よりも頼りになる存在にすっかり甘えてしまっていた主人公の香織だったが、義母のおかしな行動にだんだんと嫌悪感を抱き始める。
そしてついに、義母が恵介を連れてどこかに消えてしまった。
慌てて家を飛び出した香織が見た光景とは。そして義母の行動はますますエスカレートしていく…。
第1話:あ、もうムリだ。孫に授乳しようとする義母を見て嫁は…【同居嫁姑バトル】
第2話
- 登場人物
- 香織:この物語の主人公
- 優一:香織の夫
- 義母:香織たちと同居している優一の母
- 恵介:香織と優一の息子
- ※登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
義母と息子の「散歩」

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「恵介…!」
パジャマ姿のまま家を飛び出し、私は消えた息子と義母を探し回った。体調はまだ万全ではない。しかし、そんなのどうでもよかった。
息子が義母にさらわれたかもしれない。そんな状況を目の前にして、黙っていられる母親なんてどこにもいないだろう。
ひと通り町内をグルグルと歩き回っていると、目の前から見慣れたベビーカーを押した義母が歩いて来るのを見つけた。
私は思わず息をのんで、ベビーカーにかけよる。目線は息子しか見ていなかった。
「あら、香織さん。体調はもう大丈夫なの?」
青ざめた顔で近づく私を見て、義母がニコニコと声をかけてくる。何してるんだと叫ぼうとして、ハッと思いとどまった。
「なかなか寝なくてね。この辺をお散歩してたの。そしたら見て、ぐっすり。腰が悪いからなかなか抱っこも長時間してられなくてね…」
ベビーカーに寝かされた恵介はすやすやと眠っている。私はその姿を見て、これがただの「散歩」だったことに気づく。
「香織さん、何か用事だった?」
「…いえ。みんなどこ行ったんだろうってびっくりしちゃって…」
体調を崩した私を気遣い声をかけず、恵介を寝かしつけるために散歩してくれていた義母に、まさか「さらわれたと思ったんです」とは言えなかった。私はふらつく足元を見つめながら、恵介と義母と共に家路についた。
時間が経つのはあっという間だった。あの日から、もう1年経つ。
義母が息子をさらったのではと思った私の記憶は遥か彼方へと消えかけている。
あのとき授乳しようとしていたのも、自らが噛んだおかゆを恵介にあげようと強いたのも夢だったのではないかと思った。
昔はそれが普通で、お義母さんは現代の常識を知らなかっただけなのではないのかとさえ思った。
「ただいま~」
「ママぁ」
18時を過ぎたころ、家に帰るとおぼつかない足取りで恵介がとてとてと歩いてくる。最近話すようになった「ママ」「パパ」「ばば」の言葉が愛おしい。
「おかえりなさい香織さん」
「すみませんお義母さん、またお迎えお願いしちゃって…」
「いいのよ。もうご飯支度は済ませてあるから、食べましょ!」
「ありがとうございます」
4月に職場復帰を果たし、恵介は保育園に始めた。忙しい日々のなかで、私は1年前の事件のことなどもうすっかり忘れてしまっていた。
フルタイムで復帰してから、義母には頼りっぱなしだった。慣らし保育のお迎えも快く代わってくれて、頭が上がらない。
仕事が遅くなりそうだと聞けば「迎えに行くから大丈夫だよ」と言ってくれるし、そんなときは食事の用意も済ませてくれる。正直言って、無関心な夫よりも義母のほうがうん百倍頼りになる。
そんなある日のことだった。
恵介が保育園で熱を出し、お迎えの電話が会社にかかってきた。普段ならお義母さんにお願いするところだが、きょうは義母の通院日。
「きょうは私がお迎えに行きます。はい、あと40分ほど待ってもらってもいいですか…すみません」
保育園からかかってきた電話を切り、上司に頭を下げる。
「いいよいいよ、代わりにやっとくから早くお迎えに行ってあげな。たまにはおばあちゃんじゃなくてお母さんが来た方が、子どももうれしいだろうし」
「すみません本当」
「謝らないの!悪いことしてるわけじゃないんだから」
「はい、ありがとうございます」
最近育休から復帰した男性上司が笑いながら送り出してくれる。
別に、子育て中の親に厳しい職場ではない。むしろ寛容なほうだ。それでも休むのは申し訳なくてついつい義母に頼ってしまう。
だからこうして私が息子のお迎えに行くのは、保育園に入ってからたったの2度目だった。