実母の説教
母は恵介の言葉を聞いていろいろと悟ったらしい。ハッと息をのんで、また私の方を向いた。
「お母さんが呼ばせてるの?」
「うん…そうみたい。お世話になってるからなんにも文句言えないなとは思うんだけどね…。0歳のころも授乳しようとしてみたり、口から出した食べ物与えようとしたり…ちょっと孫との距離感が近すぎるんだ」
「近すぎる、で済む問題じゃないでしょ。園のお迎え代われないの?」
「うーん…それも含めて優一には相談したんだけどね、無関心って感じ。俺は忙しいから無理だよって言われた」
「へぇ…。優一くんとちょっと話しようか」
母は突然立ち上がり、隣の部屋で昼寝をしていた夫をたたき起こした。
「優一くんは、親としての責任果たしてる?」
「え…っと?」
「子育て、してる?」
「それは全部香織に任せてますよ!俺は忙しいんで、稼いで家計を支えるって感じっすかね」
へらへらと笑う優一に、母は真顔で告げた。
「親なのに、優一くんは無責任だね。妻に全部丸投げなんだ」
「イヤイヤ、無責任ってわけじゃ…だって俺働いてますし」
「香織も働いてるよね?」
「でも香織は女じゃないですか」
「優一くん。古いよその考え」
夫は母親からの指摘にどんどん体を小さくしていく。
「最近香織が何で悩んでるか、知ってる?」
「さぁ…」
「あなたのお母さんの話、聞いてないの?恵介は母親のことをばばって呼んで、おばあちゃんのことをママって呼ぶようになってるんだよ」
「それはまぁ知ってますけど、いまだけじゃないですかね。っていうか俺の母親は、ただ孫が可愛いだけかと」
「可愛いの範疇を超えてるんだよね。わかる?…優一くんは、自分の母親に老後も子育てをさせたいの?」
「そんなこと言ってないですよ!そもそも孫じゃないですか」
「じゃあどうして孫に自分のこと『ママ』って呼ばせるのかな」
「それは…」
「それが嫌で、香織からはなんて提案された?」
「お迎えを交代でできないかって…」
「できないの?」
夫、優一の声がどんどん小さくなっていく。
「でき…ますけど…俺の母さんが面倒見てくれるならそれがいいかなって。頼れる人は頼ったほうがいいと思うし…」
「そういう考えのせいで、いま問題が大きくなってるんだよね」
「はい…」
「あのさ、命を懸けて恵介を産んだのは誰?香織だよね。あなたのお母さんじゃない」
「…」
「おかしいよ、あなたのお母さん、ちょっと行き過ぎた行動してるよ」
母親からの厳しい指摘に、優一はすっかり静かになった。
そしてその日の夜、優一は私に「母さんと別々に暮らすのはどうかな」と提案してきた。彼が父親になって、初めての提案だった。